〜その1 口は災いの元〜


「なー、コタロー」


1匹の雑種の黒猫サイボーグのクロが、
自分と同じようなデザインのスーツに身を包んだ少年、コタローに話しかける。


「なんだいクロちゃん?」

「ナナってお前が作ったんだよな?」

「そうだけど、何で今更そんな事聞くのさ?」

「実は、アイツの事で前々から気になってる事あるんだけどよお。
アイツのデコんトコに着いてるダイヤルみたいな奴?
アレなんなんだ?」


そう言いながら、
ナナちゃんの額にある謎のダイヤルのようなものを指し示すように、
自分の額に指をやりながら話すクロちゃん。

これにコタローは、フフーンと鼻で笑いながらこう答えた。


「よーく聞いてくれました、クロちゃーん!実は…」

「実は?」






「時限爆破装置を起動させるスイッチなんだ〜」

「う、ウソー!?」


衝撃の一言に飛び上がってしまうクロちゃん。


「アハハハ!嘘に決まってるじゃないか、クロちゃん。ホントは…」


一方、コタローは笑いながら冗談であると断ると、
本当の事を話そうとした。

だが―――




「そ、そうだったの、コタローちゃん…」

「ヘッ?」


ふと、背後から聞き覚えのある少女の声が聞こえ、
コタローは振り返ると、
そこにクロちゃんが話題に挙がっていたナナちゃん本人(本ロボット?)の姿が―――


「な、ナナちゃん?い、いつの間にそこに…?」

「そんな事どうだって良いわよ。
コタローちゃん、なんでアタイの頭に時限爆破装置なんか埋め込んだの?ねえ!」

「ち、違うよナナちゃん!
今のはちょっとクロちゃんを驚かせようと思って言った冗談で…」

「ねえ、コタローちゃん!早くその装置外してよ、ねえってば!!」


冷や汗を垂らすコタローに対しナナちゃんは、
必死な様子でコタローの足を掴み、揺さぶる。

冗談を鵜呑みにして焦るナナちゃんに、コタローは困惑した。


「な、ナナちゃん落ち着いてって!
クロちゃんも、見てないで何とか言ってよ!」


クロちゃんに助けを求めるコタロー。
だが、当のクロちゃんはのん気げな顔をしている。


「ンな事言われてもなあ…
最初に物騒な冗談言ったのお前なんだから、自分で何とかしろよなー。
じゃ、オイラもう帰る」


そう言いながらクロちゃんは、
ナナちゃんとコタローを置いてその場から立ち去ってしまった。


「あ、待ってよクロちゃん!」

「コタローちゃーん!!早くー!!!」

「あーもう!こんなんなら、冗談なんて言わなきゃよかったー!!」


後悔に満ちた悲鳴を上げるコタロー。
だが、それももう後の祭りであった―――


「…にしても、
ナナの奴も自分のデコに付いてるアレが何なのか、
知らなかったのかよ…」


そして、コタローの元を後にしたクロちゃんは、
密かに思っていた事を呟いてたのであった。



〜その2 マタタビの災難〜


「はぁ…何も無い日の散歩は清々しいな〜」


何も無い桜町の昼下がり。
クロちゃんは暇潰しに1人―――と言うか1匹で散歩をしていた。

ぼんやりと散歩を楽しむクロちゃん。

ふと気が付くと、彼は廃車になった電車の近くにまで来ていた。
ナナちゃんの家、もといナナちゃんの電車だ。


「あっ!ヤベぇ、間違ってナナんトコに来ちまった…!早いトコ離れねぇと…」


それに気が付いた途端、
クロちゃんはそそくさとその場から立ち去ろうとする。

しかし何故?

それは、今日がバレンタインデーだからである。
クロちゃんの事が好きなお手伝いロボットの女の子ナナちゃんは、
毎年クロちゃんに手作りチョコを作ってあげているのだけれど、
みんな知っての通り、
料理が壊滅的にヘタなナナちゃんが作るチョコは、毒物以外の何物でも無い。
そもそも、猫だからチョコ自体、食べたいものじゃない。

クロちゃんはここに来た自分を見付けた彼女が、
手作りチョコを渡しに来るんじゃないか―――
彼にとってそんな恐ろしい事態が起こるんじゃないかと察したのだ。
(ちなみに、散歩に出てるのも実は暇潰しと言う口実で、
ナナちゃんのチョコから逃げる為だったりする)

そして、後もう少しでナナちゃんの電車から離れられそうだった、その時―――!




「がはぁ!!!」

「キャ――――ッ!マタタビくーん!!」


突然、電車の中から聞き覚えがある声が2つ。
1つはナナちゃんの悲鳴で、
もう1つはクロちゃんが昔から良く知る人物、マタタビの悲鳴であった。


「ん?なんだ?」


意外な声を聞いたクロちゃんは内部の状況が気になり確かめるべく、
逃げるように立ち去ろうとするのを途中で止めてナナちゃんの電車にまで歩み寄ると、
ドアを開けて中に入る。

するとそこには、血を吐いて倒れてピクピク痙攣している、
虎柄の生身の猫マタタビと、
その姿に焦っているナナちゃんの姿があった。


「ど、どーしたんだ…?」


その異様な光景に、唖然とするクロちゃん。
そして、そんな彼の存在にナナちゃんは気が付いた。


「あ!クロちゃん、丁度良かった!マタタビ君が大変なの!」

「見りゃ分かる。いったいどうしてこうなったんだ?」


どうしてこのような状況になったのか、ナナちゃんに聞くクロちゃん。
クロちゃんの質問に、ナナちゃんはこう答えた。


「それが、マタタビ君が珍しくアタイの電車に来てね…
それでね、毎年クロちゃんがアタイの手作りチョコを良い顔で受け取ってくれないって話したら、
マタタビ君がアタイのチョコが欲しいって言い出して…
だから、余分に作ったのをあげて、その場で食べてもらったの。
そしたらいきなり血を吐いて倒れちゃって…」

「ふーん」


ナナちゃんの説明に、
素っ気なく返事をするクロちゃん。

返事とは裏腹に、クロちゃんの中では大きな疑問が浮かんでいた。

何故マタタビは自殺行為に走るような行動を取ったのか?

マタタビは自分と違い、生身の猫だ。
チョコを食べるのがどのような事を意味するのか、
知らないはずはない。
そのうえ、ナナちゃんの料理の腕の酷さも周知の事であったはず―――

疑問を募らせたクロちゃんは、ナナちゃんの話しを整理する。

マタタビは珍しくこの電車にやって来た。
そして、ナナちゃんの話しを聞いた途端、チョコが欲しいと言い出した。
それで食べた―――


「&hellipて事は。ははーんもしかして…」


ここまで整理したクロちゃんは、頭の中の疑問が一瞬で氷解。
ニヤニヤした顔をしながら、マタタビの前まで歩み寄る。


「おーいマタタビ、生きてるかー?」


倒れたマタタビに緊張感の無い声で話し掛けるクロちゃん。


「うぅ…そ、その声は、キッドか…?」


苦しそうな声で、
マタタビはクロちゃんの昔の名前を呼びながら、
苦しげに顔を上げてクロちゃんを見る。


「いかにも…全く、オイラと違って生身な癖にチョコを、
しかもナナの作った奴を食うなんて、命知らずだよなぁ…」

「う、うるさい…!拙者は、少し腹が減ってたから…」

「またまたそんな事言って〜。
本当はナナに気に入られようとして、チョコ食べたんじゃねーのぉ?」

「な…!ち、違…ウプッ…!!」


ニヤニヤと嫌らしい顔をしながら、マタタビに顔を向けるクロちゃん。
マタタビは顔を赤くして否定しようとしたが、
その途端に吐き気を感じ、口を押さえる。

その姿をクロちゃんは面白そうな顔で見下ろしている。


「ああ!く、クロちゃん!!」

「分かってるって。これ以上コイツにここを汚させはしねえよ」


そう言いながらクロちゃんは、
口を押さえたままのマタタビをヒョイッと持ち上げると、
電車の外まで走る。


「ひっほ、はひふふひはぁ!?(キッド、何する気だあ!?)」


口を押さえてのモゴモゴした声でクロちゃんに問いかけるマタタビだが、
無視してるのかスルーしているのか、
クロちゃんはぜーんぜん気にせず走り続ける。


「おーらよっと!!」


そしてクロちゃんは電車のドアを開けるや否や、
マタタビを何処か遠くへ蹴飛ばした。


「ふへあああぁぁぁぁぁ………!!!」


口を押さえたまま、飛んで行くマタタビ。
しばらくして、彼の姿は遠くへ消えてしまった。


「これでよし」

「よしって…クロちゃん、あんな事して大丈夫なの?
マタタビ君、血を…」

「分かってるよ。
でも、アイツはチョコ食ったくらいでくたばるような奴じゃねえ。
アイツが食ったチョコって1個だけだろ?」

「え?えぇ…」

「じゃあ問題ねえや。1時間も外で置いてりゃ、良くなるって」

「ホントかなあ…?
まあそれよりもクロちゃん、はい!」


と、ナナちゃんは唐突に、
何処からかハート型の何かをラッピングしたピンク色の物をクロちゃんに差し出した。


「…へ?」

「へ?じゃないわよ。コレ、今年のバレンタインデーのチョコレート」

「あ…」


それを聞いたクロちゃんは、
自分が本日の危険地帯に足を踏み入れてしまっている事を思い出し、
全身から冷や汗が吹き出した。


「わ、ワリィナナ…オイラちょっと急用を思い出した…じゃな!」


そしてクロちゃんは見え透いた嘘の理由を述べながら、
その場から逃げ出した。


「あ!ちょっと待ちなさいよクロちゃん!!」


それを見たナナちゃんは、チョコ片手に逃げるクロちゃんを追い掛け出した。


「なんだよ、着いて来んなよ!」

「嫌よ!今年のチョコ、一晩寝ないで作った自信作なのよ!
絶対食べてくれなきゃやー!」

「ンな事知るかよー!」


こうして、クロちゃんとナナちゃんの追いかけっこが始まった。
この後、2人はどうなったか、
それはテレ…いや、パソコンの前のみんなの想像にお任せしよう。

ちなみに、クロちゃんに蹴飛ばされたマタタビはと言うと、
1時間で良くなるどころか余計悪化。
丸1日吐き気と苦しみに見舞われ、バレンタインデーの今日1日生き地獄を味わったそうだ。


「うぅ…ちくしょう…
初めてこのサイトに登場したのに、こんな扱いだなんて…!
管理人、貴様許さんぞ…!
そしてキッド…!いつか覚えてろよぉ…!!」



終わり...






 

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