とある日の昼下がり、幻想郷は異変も何も無くいつも通りの昼を迎えていた。
それは、霧の湖の島の畔に佇む紅魔館の地下にある、大図書館も同じ。
常日頃、その場所に引き篭もっている魔女、
パチュリー・ノーレッジは今日もいつも通り、
小さい眼鏡を掛け、いつも通りに本に目を通していた。

だが、今日はいつもと違っていた。


目の前を、特徴的な形の青い帽子を被り青い服を着た少女が、
淡々と本に目を通すパチュリーの前を横切った。

上白沢慧音だ。

彼女は、最近この大図書館の準常連となっていた。
本人曰く、大図書館は外の世界の書物が多い分、教材探しに打って付けらしい。

だが、彼女は準常連である事から分かる通り、
まだいつも通りの大図書館の風景の範囲内である。

では、今日の何処がいつもと違うのかと言うと、
今日は慧音の他に、
この大図書館では恐らく本来なら絶対見掛けないはずの2人の姿があったのだ。

それは、1人は紫色で一つ目の絵や口が描かれ、
本物の生き物の舌が出た大きい傘を持ったオッドアイの少女。
もう1人は、髪に落ち葉の飾りを着け、
散りゆく紅葉を思わせる柄の赤い服を身に纏った黄色っぽい髪の少女であった。


「な〜るほど!こんな脅かし方もあるのね」


手にした本を見ながら、感心するオッドアイの少女。

彼女は、妖怪から傘お化けの"多々良小傘(たたら こがさ)"。
主に人を驚かせ、それで腹を満たしている妖怪で、
普段は外で日夜人を驚かせようと飛びまわっているのであるが、
今日は何故か大図書館に来ていたのだ。

それは何故かと言うと、本人曰く
「守矢の巫女がビビる程怖ーい脅かし方が書かれた本を探しに来た」
との事らしい。


「あぁぁぁ!コレでも無い!コレでも無い!!」


そしてこちらは、赤い服の少女の方。

彼女は次々と本棚に並べられた本を見ては、
目当ての本では無いとヒステリックに叫びながら、投げ捨てていた。

"秋静葉(あき しずは)"、幻想郷の秋を司る紅葉の神で、
秋を司る豊穣の神である"秋穣子(あき みのりこ)"の実の姉である。

何故、秋の神がこんな場所にいるのかと言うと、本人曰く
「鈍い妹を振り向かせる本を探しに来た」
との事である。

そして、この2人がどうやって紅魔館内の大図書館にまで来れたのかと言うと、
慧音の同行者として一緒に着いて来る事により、
門番の美鈴をパスして来たのである。

しかし、彼女ら2人が慧音と一緒に大図書館に来ただけならまだ良かったのだが、
2人の内、静葉の方はと言うと、
何があったのか今日は非常にイラついており、
先程から分かる通り、本棚の本を漁るだけ漁っては、目当ての本で無ければ投げ捨て、
また本棚の本を漁るだけ漁っては、目当ての本で無ければまた投げ捨てを延々と繰り返していたのだ。

おかげで、静葉が本棚の前に立つ度に、近くの床に小さい本の山が出来上がり、
その都度図書館の管理をさせている小悪魔達が対応に手を焼き、
慧音も度々注意をするのだが、イライラが勝っているのか一向に止める気配が無かった。

当然、マナー違反な静葉の行動に、パチュリーは頭を悩ませていた。


「(そろそろつまみ出した方が良いかしら…)」


慧音の注意も全然聞いてないし、慧音もどうにかしようと考えてる様子だし…

パチュリーがそう考え始めた、その時だった。




キヤアァァァァァァァァァッ!!

「!」


突然、小傘の悲鳴を聞こえたもので、
パチュリーは声のした方を見ると、そこには牙の生えた本に傘の舌を噛まれて痛がる小傘と、
それを上からケラケラと笑う小さい小悪魔の姿があった。

どうやら、小悪魔の妹の偽物の本を使った悪戯に遭ってしまったようだ。


「イタタタタ!離れなさいよもう!」


そう言って小傘は、舌に噛みついた偽物の本を床に叩きつける。
すると、叩きつけられた偽物の本は散るように消えた。


「あーあ…もう壊れちゃった。まだまだ魔力が足りないのかなぁ?」


本が消える様に、小悪魔の妹はそんな事を言うが、
その本の悪戯に遭った小傘の方はと言うと、気が気じゃなく、
キッと小悪魔の妹を睨みつける。


「ちょっと、何が凄い脅かし方が載ってる本よ!しかも、この私を脅かすなんて…!」

「ヘッヘーン!騙される方が悪いんだよ〜だ!」

「なにをー!このぉ!!」


小傘は傘を振い、小悪魔の妹目掛けて米粒弾の弾幕を放つが、小悪魔の妹は急上昇して回避した。


「キャッハハハハ!あったらないよ〜ん!」

「コイツ、待てー!!」


逃げる小悪魔の妹を追う為、小傘もまた飛び上がる。

そして、小悪魔の妹を追いながら、また傘を振って弾幕を放ち、
小悪魔の妹は小回りを利かせて避けながら逃げ続ける。

こうして、大図書館内で弾幕を放つ小傘とそれから逃げ続ける小悪魔の妹による、
壮絶な追いかけっこが始まってしまった。


「おい、止めろ2人共!」

「小こあも止めなさい!止めないと封印掛けるわよ!」


何とか制止させようと呼び掛ける慧音とパチュリーだが、
両者必死で彼女らの声が聞こえていないのか、追いかけっこを止めようとしない。


「…ん?おお?」 そして、追いかけっこを続けている中、小悪魔の妹の目にあるものが目に入る。

それは、相変わらず目当ての本が無いと叫びながら、
本を投げ捨てる静葉の姿であった。

どうにも、本が見付からない苛立ちと焦りなどからか、
小悪魔達が追いかけっこをしている事に、気が付いていないいないようであった。


「ニッヒヒ…よぉ〜し…!」


また何か良からぬ事を考え付いたのか、
文字通り小悪魔的な笑みを浮かべた後、静葉目掛けて急降下を始める。


「今度こそ…えいっ!」


すかさずまた弾幕を放った小傘。

だが、これを小悪魔の妹はまたしても即座に回避したのだが、
これがとんでも無い結果を招いた。


「痛っ!イタタタタタ!!」


狙いを外した小傘の弾幕は、その先にいた静葉に当たってしまったのだ。


「あ…」


予期せぬ相手に被弾させてしまった小傘は、思わずその場で止まってしまう。

そんな彼女の様子に、
小悪魔の妹は計画通りと言わんばかりの表情を浮かべた後、
その隙に何処かへ逃げてしまった。


「あっ!あの娘ったら…!」

「全く…パチュリー、アイツの事は私に任せてくれ」

「ええ、頼むわよ」


そうして、慧音は小悪魔の妹の後を追い掛けて行った。



「あわわ!し、静葉大丈夫!?」


その一方、小傘は被弾させてしまった静葉に近付き、気遣いの言葉を掛けていた。

とは言え、静葉の方はと言うと、痛がりはしたが、
倒れるほどのダメージを受けてはいないのではあるが。




と、その時だった。


「うえっ!?」


突然、静葉が小傘の胸倉に掴みかかって来たのだ。


「ちょ…し、静葉!?」


予想外の静葉の行動に、小傘は驚くが、
そんな彼女の事などお構いなしに、静葉は怒り剥き出しな形相でこう言い放つ。


「お前ね!今の、やっぱりお前がやったのね!?」

「そ、そうだけど…」

「じゃあ、どうしてくれるのよ!?痛かったんだから!」

「ご、ゴメン…ホント、ゴメン…!」

「うるさい!!」


謝る小傘だったが、静葉の怒りは収まらず、
今度は小傘の顔に何度も平手打ちを繰り出す。


「う"っ!ぶっ!」

「全く!昨日のにっぶい穣子と言い、今日と言い!
何でこんな私がこんな目に遭わないとダメなのよ!!このっ!このっ!このぉーっ!」

「ちょ…わ、私に言われても…あ"っ!う"!」


愚痴りながら小傘に平手打ちを続ける静葉。
だが、小傘には何の非はない為、
今の彼女の行動は誰の目から見てもただの八つ当たりである。

そして、そんな彼女の前に、パチュリーがやってくる。


「静葉、いい加減にしなさい。これ以上騒ぐようなら、つまみ出すわよ」


警告するパチュリー。
しかし、静葉は聞こえていないのか、それとも聞いてないだけなのか、
小傘への八つ当たりを止めようとしない。


「静葉、聞いているの?静葉!」


静葉に近寄り、呼びかけるパチュリー。

だが!




「あぁぁぁ!!うるさぁぁぁぁい!!!


ガッ!

静葉はパチュリーの顔を思い切り殴った。

しかも、握り拳で思いっきり―――


「むぎゅ…っ!」


突然の不意打ちと、病気持ちだったという事もあり、
対処できなかったパチュリーの体は、軽く飛ばされた後、悲鳴を上げて力無く床に倒れた。


「ぱ、パチュリー…!」


殴り飛ばされたパチュリーを見て、心配そうにする小傘。
一方、殴り飛ばした張本人静葉はと言うと、特に悪びれる様子も無く。


「フンッ!関係も無しにうるさく言うのが悪いのよ。お前こそ静かにしときなさい」


と、自分の事を棚に上げる発言をする。

だが―――




「あ…貴女ね…!」

「…?」


これが



「いい加減に…」


パチュリーの怒りに



しなさぁぁぁぁぁぁい!!!


火を着けてしまった。


「!?」

「…!」


怒声と怒りのオーラ全快でいきなり立ち上がったパチュリーに、
先程まで騒いでいた静葉は、驚きの余り一転して黙り、
小傘も驚きのあまり目を見開く。

そして―――





チュドォ―――――――――――――――ン!!



ピチューン!ピチューン!


次の瞬間、大図書館を真っ赤な光が包み込み、2人分の撃墜音が鳴り響いた。






「すまないな、君にまで手伝わせてしまって」

「いえいえ。こんな事、日常茶飯事ですから」


そんな会話をしながら小悪魔の妹を連れて、大図書館に入ってくる慧音と小悪魔の姉。

あの後、慧音は小悪魔の姉と協力して、妹の方の小悪魔を捕まえてきたようだ。
そして、その小悪魔の妹はと言うと、
姉に捕まって沈んだような様子である。


「それに慧音さん、謝るのはこちらですよ。
この子ったら、いつも言ってるのに、お客さんに悪戯ばっかやるんですから。
だから今日は、いつもよりキツお灸を…っ!」

「な…っ!」

「!!」


と、小悪魔の姉が改まるように慧音に謝罪し、前を見たその時、
彼女らは3人は自分達の目に入った光景に、我が目を疑った。

何故なら、彼女らの目の前には、
ボロボロの姿でうつ伏せで床に倒れた静葉と、仰向けで倒れた小傘、
そして、その2人をプイっとした感じに見下ろすパチュリーがいたのだ。


「こ、これは…」


さすがの慧音も唖然とした様子を見せるが、
対して小悪魔の姉は「あちゃぁ…」と言いたげな表情でこう言った。


「あーあ…、あの2人、パチュリー様を怒らせてしまったのね…
きっと騒いだりしたに違いないわ」

「騒ぐ?…ああ」


小悪魔の姉の一言で、納得の様子を見せる慧音。

しかし、小悪魔の姉の推測はちょっとだけ間違っていた。

パチュリーの怒りは、あくまで騒いだ挙句、
自分に攻撃をして来た静葉にだけ向けられたもの―――
小傘は彼女の近くにいたから、たまたま巻き込まれてしまっただけに過ぎない。

その為、小傘は朦朧とする意識の中で、搾り出すような声で
「なんで私まで…」とこぼしていたのだが、
その事に誰も気付いていない。


「あら?」


とその時、パチュリーは戻ってきた慧音達の姿に気付き、彼女らの下に移動する。


「ちゃんと捕まえてきてくれたのね。ありがとう」

「あ、ああ…」

「ど、どういたしまして…」


我に返るかのように、返事をする慧音と小悪魔の姉。

そんな彼女らを見た後、パチュリーは今度は小悪魔の妹に目をやる。


「ひっ…!」


目の前の光景の事もあり、
小悪魔の妹は思わず背筋を強張らせる。

それを知ってか知らないか、パチュリーは声のトーンを落としながら、こう言った。


「小こあ…これ以上悪戯したら、
どうなるか分かっているでしょうね?」

「あ、あ…は、はい…!」

「それで良いわ。
ホント、今日は気を付ける事ね。
今日は喘息の調子も良いから、この2人のようにならないよう、用心する事よ」

「わ、分かりました…」


今のパチュリーにただならぬ恐怖を感じているのか、
小悪魔の妹は珍しく素直に受け答えをする。

それを見てパチュリーは表情を一変。
軽い笑顔を作って頷くと、今度は姉の方に目を向ける。


「それと、こあ」

「はい?」

「そこの2人、このままだと邪魔だから、客室にでも連れて行って寝かしときなさい」

「分かりました」

「では、私はいつも通り教材を探していれば良いのか?」

「ええ、もちろん。気が済むまで探すと良いわ」

「じゃあ、お言葉に甘えて…」


こうして、慧音は教材探しの為本棚に、小悪魔の姉は小傘と静葉を客室へ、
小悪魔の妹は特に何も言われてはいないが、
自己的に自分の仕事へと戻っていく。

そして、慧音は小悪魔の姉に運ばれていく小傘と静葉を見て、心の中でこう言った。


「(しかし、あの2人があそこまでやられるなんて…
やはり、図書館では静かにするのが鉄則、だな)」




さて、珍しい来客が大図書館にあったものの、
やっぱり今日も幻想郷はいつも通りである。

―――え?何処がいつも通りなのかって?

幻想郷ではこのようなドタバタ騒ぎが、日常茶飯事ですから―――



何か中途半端だけど終わり






 

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