地霊殿のとある一室。
蛇の置物や壁紙などが特徴的な部屋の中央のテーブルを挟むように、
1人の猫耳などが特徴的な少女と、1人の蛇柄の着物を着た小柄の少年が椅子に腰かけ、何かをしていた。
少年は、テーブルの上で沢山あるカードを巧みにシャッフルし、少女はその姿を眺めていた。
「上手いわね。いったい何処でそんなの覚えたの?」
少年のシャッフルさばきに、少女燐が聞く。
「この前古道具屋から頂戴した本を見ながら練習したんだ」
燐の質問に、少年蛇丸が手を休めないようにしながら、答える。
「へえ、そうなんだ。
…でも、わざわざシャッフルしてデッキ作る必要なんてあるの?スペルカードはトランプ対決じゃないんだし」
「知っているさ。
でも、普通に一枚一枚カードを見ながらやるよりもこっちの方が早いし、面白い」
「ま、それも言えてるけどね。…………」
ふと、燐はスペルカードをシャッフルし続ける蛇丸を神妙な表情で見る。
そんな彼女の表情に、シャッフルを続けながら口を開く。
「どうした?」
「いや…こう言っちゃなんだけどさあ、貴方って変わってるなあって…」
「何処がだ?」
「そうやって、真面目にスペルカードのデッキ組んだり、弾幕ごっこしたりするところがだよ。
そこまで真剣に弾幕ごっこをする男の人って、幻想郷じゃ滅多にいないわよ」
「そんな事か。
…確かに、俺は変わっているかもな。こんな女の遊びに、真剣に熱を燃やしているんだからな」
そう言いながらシャッフルを続ける蛇丸だが、言葉とは裏腹に表情は一つも変えておらず、
特に後悔しているような様子も見られなかった。
「そこまで分かってるなら、どうして弾幕ごっこをやるの?
貴方、男の人達から変な印象受けちゃってるよ?女々しい蛇だな〜って」
蛇丸の様子を見てかそうでなしか、そのような事を蛇丸に伝える燐。
それを聞いた蛇丸は、特に驚く素振りも見せず、相変わらずシャッフルの手を休めないまま、こう言った。
「知っている。泉夜子に良く言われてる」
「じゃあ、何か嫌だとか思わないの?」
「ああ、嫌だ。でも、止められないんだ。
男の遊びに興味が無い訳じゃない。あっちも充分楽しい。
でも、弾幕ごっこも女の遊びではあるが、色々と興味深いんだ。男の遊びとは違う、全く別の刺激がある。
それが面白くて仕方が無いんだ」
ハッキリと言いきった蛇丸に、燐は驚きの余り目を丸くした。
「へ、へえ…そうなんだ…」
「ああ。お前も一度、男同士の遊びをやってみたら良い。何か、新しい発見があるかもしれない」
「え、ええ…でも、驚いたな。貴方がそこまでアタイらの遊びに興味持ってたなんて」
「今頃気付いたのか?お前なら当の昔に気付い…てたら、こんな事聞かないか」
「当たり前でしょ!アタイはさとり様と違って心読めないし、
男の子がそこまで弾幕ごっこに興味示すなんて、普通は誰も考えないよ」
「…そうか。やっぱりこの世界では、そう言う認識なんだな」
と、先程から表情1つ変えなかった蛇丸は、残念そうな顔をしながら残念そうにそうもらす。
「あ、いや…別にそう言う意味で言った訳じゃ…」
蛇丸の様子に、燐は慌てて弁解しようとするが、蛇丸は首を横に振りながらこう答えた。
「謝るほどの事じゃない。俺が勝手に残念がっただけだ」
「で、でも…」
「いや、お前は悪くない。
ああは語ったが、本来なら男が興味を示すような遊びじゃないんだ。
その反応の方が正常だ。だから、私がどう思おうが、否定する資格なんて無い」
「そ、それなら良いよ。でも…」
「…まだ何かあるのか?」
「そこまで分かってるなら、どうして弾幕ごっこに興味持ったの?」
「…」
燐が質問すると、それを聞いた蛇丸は、
両手にスペルカードの束が出来た辺りで、急にシャッフルの手を止め、そして語り出す。
「…始めは、俺も他の男同様興味なんてなかったさ。
でも、こいしの専属ペットを任された際、
彼女の相手をする以上は弾幕ごっこも出来なければ、いけないと思って自主的に始めたんだ。そしたら…」
「やってる内に、楽しくなった…?」
「ああ。始めは彼女の機嫌を損ねない事を目的にやってたはずなのに、気が付いたらこうなってしまったと言う訳さ」
そう言いながら、蛇丸は両手の中のスペルカードの束をパラパラとテーブルの上に撒く。
そして、全て落としたのを見ると、テーブルに撒いたスペルカードの中の数枚を手に取った。
「次のルナティックデッキは、これで決まりだな」
「ルナティックデッキ…随分と難しいの作ったわね」
「泉夜子に決闘を持ち掛けられた時の事を想定したからな。
アイツ、弾幕ごっこをくだらないとか言ってる癖して、実際にやると物凄くまともで難しいのを出して来るから、
こうでもしないと痛い目を見る」
「ああ、なるほど…」
「さて、スペルカードのデッキ作りも終わった事だし、俺は地上へ買い出しに出掛けて来る。
その間、さとり達とここの事を頼むぞ」
「分かってるよ蛇丸。だから安心して行ってきなよ」
「ああ」
こうして、蛇丸は地上へ買い出しへと出かけた。
その後、彼は本当に泉夜子か誰かに弾幕ごっこを持ち掛けられたかどうかは、各自の想像にお任せしよう―――
終わり...
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