青い空、眩しい太陽。
カンカン照りの夏の真っ只中、SLマンとアンパンマン達はまっすぐと何処かへ向かっている。
そして、SLマンが引く客車の中には、ミミ先生とその生徒達とメロンパンナ、クリームパンダが乗っている。
中には、目的地に早く着かないかと窓から外を眺めていたり、歌を歌っていたり。
そして生徒達の中に、いつもと少し違うメンツが1人―――


「カーナちゃん、海楽しみ?」


メロンパンナは、自分の横に座っているいつもと違うメンツの1人に話しかける。
それは彼女の親友のカーナであった。
夏日だからなのか、今日のカーナはいつもと違い涼しげな服装で、
膝の上には鳥をかたどった飾りがついた麦わら帽子を置いている。
ちなみに、靴もサンダルで、スカートには可愛らしい鳥マークが入っている。


「ええ、楽しみよ」

「だよねー。カーナちゃん初めての海、いっぱい楽しんでね」

「えぇ…」


正面の席に座っているクリームパンダが楽しそうにカーナに言う。
そう、彼女が海に行くのはこれが初めてなのだ。
一応知らないわけではないが、実際に行くのはこれが最初―――
しかし、これから初めての海に向かっている本人の表情はどう言う訳か不安げだ。


「みんな海が見えてきたよ!」


唐突に前方を指差しながらSLマンは言う。
その声に彼の客車に乗っていた一同は、窓から顔を出し、進行方向先に目を向けると、
線路の向こうから青く輝く巨大な青いものが見えて来る。
言うまでも無く、彼の言う海―――


「カーナちゃん、アレが海だよ!」

「アレが…海…」


クリームパンダに指差され、カーナは目の前に近付いて行く海に目を奪われた。




「うわあ、大きい!」


海岸付近の崖上のバンガローの側―――
転落防止用の柵から身を乗り出し、みんなと一緒にSLマンから降りたカーナは声を上げた。


「そんなに驚く事かな?海が大きいなんて、当たり前だと思うんだけど…」

「それは知ってるわ。でも、こんなに大きいなんて思わなかったの…見るの、初めてだしね」

「そう言えばそうだったね。ごめん、もう忘れちゃってた」

「もう、クリームパンダちゃんったら」


「…あれ?カーナちゃんまだここにいたの?」


ふと、後ろからウサ子ちゃんの声が聞こえカーナは振り返ると、
そこには水着を着たウサ子ちゃんを始めとした、ミミ先生や学校の生徒達の姿があった。


「へえ!?」


そしてその姿を見たカーナは何故か驚いた。


「ど、どうしたの?」

「あ…確か、それって…水着、だよね?」

「そうだけど?」

「良かった…下着に見えてビックリしちゃった…」

「もう、カーナちゃんったら止めてよ!」


顔を赤くしながらウサ子ちゃんが突っ込むと、
カーナも「ご、ごめんなさい…」と謝り、実際に見るのは初めてだったからとも付け加えた。
その様子を見た後、ミミ先生が口を開く。


「カーナちゃん、あなたもそろそろ着替えないとダメですよ」

「え?着替えるって…」

「水着ですよ。あなたも泳ぐのでしょう?」

「え?ま、まあ…メロンパンナちゃんに水着、持って来るよう言われましたし…」

「では早くバンガローで着替えて来なさい。水着に着替えていないのはあなただけなのですよ」

「で、でも…私は…その…」

「カーナちゃん大丈夫よ、誰も覗かないよう見張ってるから」

「え?メロンパンナちゃん?あの…」


何故か水着に着替えるよう言われ、急にオロオロしだすカーナ。
そんな彼女の様子に、メロンパンナは覗かれるのを恐れているのではないかと考え、
彼女を半ば強引にバンガローの方へと押し、連れて行った。


「カーナちゃん、どうしたんでしょうか?」

「水着になるのが恥ずかしいんじゃねえか?それか…」

「それか?」

「いや、何でもねえよ」


カーナがオロオロしだした原因を考えるしょくぱんまんとカレーパンマン。
その最中カレーパンマンが妙に意味ありげな口ぶりを見せるが、
すぐに誤魔化し、しょくぱんまんは首を傾げた。



それからしばらくして―――

バンガローで見張りをしていたメロンパンナがカーナと一緒に戻って来る。
どうやら水着に着替え終わったようなのだが、
着替え終わった本人は全身を白地にオレンジ色の鳥マークが描かれたタオルで包んでおり、
自身の体を隠していた。


「あれ?カーナちゃんどうしたの?」

「いや…その…」


アンパンマンの問いに答えに詰まるカーナ。
その表情は何処か恥ずかしがっているようにも見える。
そして、横にいたメロンパンナがもう!っと言ったご様子で口を開く。


「カーナちゃん、せっかく水着になったんだから、ちゃんと見せてあげてよ」

「で、でも…お肌いっぱい見えてるし…」

「大丈夫だって。さっき私がチェックしてあげたでしょ?」

「え、えぇ…」

「だからほら、タオル取って」

「うん…」


メロンパンナに強く言われ、カーナは恥ずかしそうにしつつも、
身をくるんでいたタオルをそっと取り去る。

するとどうだろうか?
中から黒いビキニを着用したカーナの体が一同の前に露わとなる。
しかもその黒ビキニは普通のと違い、
ビキニパンツに透明度の高い黒いベールのようなものが着いており、
さながら泳ぐ金魚の尾びれを連想させた。


「可愛い!」


カーナの水着姿に、女性陣がそろって声を上げた。


「そ、そう?なんか、凄くお肌がいっぱい出てて恥ずかしい格好だと思うんだけど…」

「何処が?その黒いの以外は私達のと一緒じゃない」

「うんうん」

「そう…良かった…私、こう言うの着るの初めてだから…」

「なーんだ、それだけの理由か。
俺はてっきり、際どい水着でも持って来てたんじゃないかって心配したぜ。
ついさっきも肌がいっぱい見えてるとか言ってたしな」

「何でそんなもの持って来ないといけないのよ、もう!」


カレーパンマンの一言に、カーナは顔を赤くしながら怒鳴った。


「そ、そんな怒鳴る事無いじゃねえか…」

「いえいえカレーパンマン、あなたの言い方は実に無神経ですよ。ねえ?」

「うん!」


しょくぱんまんに言われ、カーナも強く答えた。
しょくぱんまんだけならまだしも、カーナにまで強く同意されては、
さすがのカレーパンマンもヘタに反論が出来なかった。


「でもカーナちゃん、その水着何処で手に入れたの?」

「私もいろんな水着見た事あるけど、そんな水着初めて見たわ」

「ああ、コレ?実はね…」


どうやらカーナの水着は誰も見た事の無いものらしく、
ウサ子ちゃんとニャンみちゃんが水着の出所を問うと、カーナは出どころについて話しを始めた。





それは今より昔―――

彼女がブラックノーズの魔法で人間の姿にされ、
少し大きくなり今より小さめの奏者服が着れるようになった頃の事―――


「カーナやお前にコレをやろう」


ブラックノーズは自身の手にとっては非常に小さいそれを、カーナの目の前に落とす。
それは、カーナが着ている黒い水着だ。

だが、この頃のカーナにとってはまだ少し大きく、着れない大きさであった。


「お母さまこれはなんですか?下着なら、このあいだ…」

「いいやカーナ、コイツはね水着と言うものだよ」

「みずぎ?何ですかそれは?」

「水の中に入る時に着るもので、簡単に言えば濡れても良い服みたいなものさ。
まあ、見た目は服っぽくは無いがね」

「そうなのですか。でも、お母さまどうしてこれをわたしに?」

「決まってるじゃないか…今の私には必要が無くなったからさ」

「わたしにはひつようが無くなった?ということは、お母さまのものなのですか?」

「そうさ。そいつは私が若い頃に着ていたものなんだよ。
昔はそいつで、その辺の男どもをうならせたものさ…」

「ふーん…カーナ、わかりません…」

「今は分からなくても、いずれ分かる時が来るさ。そう、それが着れる頃にはねえ…」




「…と言う訳なの」

「へえ、ちょっと意外だな」

「でもあの怖いお婆さんの水着何か着て、大丈夫なの?」

「大丈夫だと思うよ。今までブラックノーズがくれた服に危ないものは無かったし。
それに、他に良い水着無かったしね」


ウサ子ちゃん達に説明するカーナ。
だが、彼女の話しを聞いていたカレーパンマンは、
少し離れた場所でコソコソとしょくぱんまん、アンパンマンにこのような事を話していた。


「お、おい…ちょっと待てよ…
今カーナちゃんの着てる水着がブラックノーズが若い頃に着てたものだって事は、
ブラックノーズの若い頃ってどんなんだったんだ?」

「そう言えば…」

「アレの若い頃…想像できませんねえ」

「みなさーん!カーナちゃんが揃った所で海に遊びに行きましょう!」

『はーい!』


巨大な謎が出来たのをよそに、ミミ先生は生徒達に声を掛けると、
彼女を筆頭に生徒達は崖の一部を切り抜いて作られた階段から下の海岸へと降りて行く。
だが、彼らが次々降りて行く中、カーナだけ戸惑い着いて行こうとしない。


「どうしたのカーナちゃん?行こうよ」

「そうそう。ほら」

「え、ちょ…!」


それを見たメロンパンナとクリームパンダが、彼女の腕を引っ張って連れて行き、
アンパンマンら3人も後を追った。


そして海岸―――

生徒達は好きなように遊んでいる。
あるものは海で泳いだり、浜辺で砂遊びしたり、
海で泳いでいる生徒の中には、浮き輪を付けて泳いでいたり、
泳ぐのが上手くない子はアンパンマンらに手を引かれ泳ぐ練習をしていたり―――
とにかく、子供達によって様々だ。

そんな中でカーナだけは少し離れた場所で、その光景を見るだけで、
何故かその中に入ろうとしない。
その姿は、感心しているようにも見えるが、入ろうかどうか戸惑っているようにも見えた。


「カーナちゃんどうしたの?」

「カーナちゃんも私達と一緒に泳ぎましょうよ!」


それに気付いたウサ子ちゃんとニャンみちゃんが、
彼女に近付くと両腕をウサ子ちゃんが右腕を、ニャンみちゃんが左腕をそれぞれ持ち、
カーナを海の方へと引っ張る。


「ふ、2人共!ちょっと待って!」


制止を掛けようとするカーナだが、
聞こえていないのか、2人はカーナをグイグイと海の方へ引っ張っていく。
そして、3人が海のすぐ手前まで差し掛かった所、彼女らが来たのとほぼ同じタイミングで、
ザザーっと小さい波が砂浜に押し寄せて来た。


キャ―――――――!!!!


するとカーナが予想外の動きを見せた。
突然彼女は悲鳴を上げると、
悲鳴を聞いて驚いたウサ子ちゃんとニャンみちゃんの腕を振り払い、
先程自分がいた場所まで逃げるように走ると、その場でうずくまって震えだした。


「カーナちゃん?」


親友の異変に、メロンパンナは泳ぎがヘタな子供の泳ぎの練習を中断し、
彼女の側まで飛んで掛け寄った。


「どうしたの?何があったの?」


震える彼女の背中に優しく手を置き、問い掛けるメロンパンナ。
するとカーナはこう答えた。


「こ、怖い…」

「怖い?何が?」

「う、海が…」

「え?」


信じられない一言に、メロンパンナは我が耳を疑った。
だが、彼女はハッキリと海が怖いと言ったのだ。

いったいどう言う事なのか聞きたかったが、少々怯えている様子だったので、
メロンパンナは少し間を置いてから話しを聞く事にした。
無論、その間にミミ先生や生徒、アンパンマン達を集めるのも忘れなかった。
彼らも彼女が悲鳴を上げて怯え出した理由を知りたかったからである。

そして、少ししてカーナはすぐに落ち着きを取り戻した。


「ご、ごめんなさい、急に…」

「別に気にしないで。それより、海が怖いって…」

「それは…ね…」


一同の疑問に答えるべく、カーナは静かに語り始める。


「私…何かちょっとね…海に入るのが、とっても怖いの…」

「何で?カーナちゃん海は…」

「始めてよ。でも、海って綺麗で神秘的だけど、怖い部分も結構あるって本とかで知って…
それで実際に見たら凄く大きかったから、尚更怖く思えちゃって…
だいいち私、水辺で遊んだ事そんなになかったし…」

「なるほど。つまり泳げない訳じゃないけど入るのが怖いのですね?」

「うん…一応、相談したいとも思ってたんだけど、みんなが海を楽しそうにしてるのに、
私だけ海に入れないなんて、言い難くって…」

「じゃあ、さっき水着に着替える時に妙に戸惑ってたのは、
そう言う理由もあったって事か?」 カレーパンマンの言葉に、カーナは無言でうなづいた。
そして、その話しを聞いていたクリームパンダは不安そうに口を開く。


「ねえどうしよう?」

「そうね…みんなは海で遊べるのに、
カーナちゃんだけ入れないって言うのもねえ…」

「だったらやる事は一つしか無いんじゃねえか?」

「そうですね」

「うん、それしかないよ」


突然、カレーパンマン、しょくぱんまん、アンパンマンが何かを決めたかのような口ぶりを見せる。


「え?な、なに?」

「何って、決まってるじゃねえか。
カーナちゃんが海に入れるよう、みんなで手伝ってやるんだよ」

「えぇ?!そ、そんな、悪いよ…」

「ですが、1人だけじゃ怖くて入る練習なんて出来ないでしょう?」

「そうよ。私とクリームパンダちゃんも手伝うから…ね?」

「でもみんなは…」

「大丈夫、みんなも賛成みたいだから」


アンパンマンの言う通り、カバおくんらをはじめとした男性陣、
ウサ子ちゃんを始めとした女性陣も海に入るのを手伝ってあげよう、賛成だなどと言って、張り切っていた。


「み、みんな…」

「じゃあみんな、カーナちゃんが海に入れるようしっかり手伝ってあげるのよ?良い?」

『はーい!』


ミミ先生の声かけに、子供達は元気良く返事の声を上げる。
最初、自身の欠点が彼らの楽しみを奪ってしまうのではないかと危惧していたカーナだったが、
彼らを見て要らぬ心配だったのかもしれないと、今まで中々言い出せなかった自分が馬鹿らしくなった。
その反面、彼らの優しさ温かさを再確認するのであった―――





「なるほどねえ…海に入れないとは可哀相…」


だが、遠くの岩場の影からその様子を覗く者がいた。
それは先程ばいきんまん達を全滅させた謎の少女であった。
少女は、彼らを見ながら1人呟く―――


「でも、そいつらの手伝い何か受ける意味なんて無いわよ。
だってここにいる人達みーんな、私のコレクションになっちゃうんだからね。
ヒ〜ッヒッヒッヒッヒッ!ヒ〜〜〜〜ッヒッヒッヒッヒッヒッヒッ!


意味深に1人呟いた末、少女は高らかと笑う。
果たして、彼女は何者なのだろうか―――?



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