ドロンコ魔女



「ドロンコ魔女?」

「どっかで聞いた事のある名前だな」

「クリームパンダちゃんを泥人形にして、どうするつもりですか!?」

「どーするって?こーすんのよ」


ドロンコ魔女は、そう言って海の方を指差すと、
轟音を立てながら"あるもの"が浮上してくる。


「な、なんじゃこりゃあ!?」


浮上した"あるもの"を見て、カレーパンを始め、一同は驚く。
それは、まるで泥を固めて作ったかのような、
巨大な展示台であり、その上には泥人形と化した、
カバおくんやちびぞうくんを始めとした、
行方不明になったみんなや、ばいきんまんやドキンちゃんにコキンちゃん、
ホラーマンとその手下達が飾られるように置かれている。

その頂上には、大きな空きスペースがあり、
そこの右端部分に泥人形にされたクリームパンダが設置される。


「これで私のコレクションが、また1つ…
コンプリートまで後ちょっと」

「コレクション?これが?」

「酷い。カバおくんやみんなが…!」

「ばいきんまん達まで!
アイツら、今日は珍しく悪さに来ないと思ったら…!」

「ドロンコ魔女!みんなを元に戻すんだ!」

「あらあら、後ちょっとでコレクションが完成するって言うのに、
手放せは無いんじゃないの?」

「後ちょっとで完成?」

「そ…この展示台の一番上、空きがあるでしょ?
あそこに乗るのは…」



「あなた達何だから!」


ビシュシュッ!

ドロンコ魔女は叫ぶと、
人差し指から泥玉をアンパンマンらに向けて連射。

彼らはすんでの所でかわし、
アンパンマン、カレーパンマン、しょくぱんまん、メロンパンナの4人は、
その場から飛び上がる。


「いきなり攻撃かよ!」

「どうやら、戦うしかないみたいですね」

「よおし、みんな行くぞ!」


そして、4人はドロンコ魔女に向かって行く。


「クリームパンダちゃんを返してもらうわよ!
メロンパンナの、メロメロパ〜ンチ!」


まず先にメロンパンナがメロメロパンチを繰り出すが、
ドロンコ魔女は澄ました顔で、ひょいっとかわして見せる。


「女の子とは言え、容赦はしませんよ!しょくパーンチ!」

「カレーパンチ!」

「アンパーンチ!」


続けて、他の3人もパンチ攻撃を仕掛けるも、
ドロンコ魔女は、余裕な動きで全てかわす。


『トリプルパーンチ!!!』


そこで、今度は3人揃ってのパンチを繰り出そうとした。


「そおらっと!」


ビュゴォ――!

それを見たドロンコ魔女は、自身が座るほうきを大きく振うと、
凄まじい強風を巻き起こす。


『うわあ!』

「きゃあ!」


その強風に耐えられず3人と、
近くにいたメロンパンナは吹き飛ばされてしまう。


「ヒッヒッヒ〜…」


アンパンマン達が、吹き飛ばされてバランスを崩したのを見て、
ドロンコ魔女はニヤっと笑みを浮かべると、
両手の平に小さな泥の竜巻を発生させ、彼らに向けて投げ付ける。


「はっ…!」


それを見たアンパンマンとメロンパンナは、すぐに体勢を立て直して避ける。


「どわ〜〜!!」

「うわ〜〜!!!」


一方、しょくぱんまんとカレーパンマンは反応が遅れてしまい、
竜巻が命中。
グルグルと振り回される内に、全身に泥がこびりついていき、
クリームパンダら同様の泥人形となって、
展示台の空きスペースに吹き飛んでしまった。


「しょくぱんまん!カレーパンマン!」

「コレクション2つ追加〜♪続けて出て来なさい、お前達!」


ドロンコ魔女は、人差し指を立てた片手を頭上に掲げると、
ポンポンと白い煙と共に茶色いすライムの様な小さな怪物が、
大量に姿を現わす。


「あれは、ドロドロン?」

「ドロドロン?」


その怪物は、かつて戦った事のあるドロドロンとほぼ同じ姿をしており、
アンパンマンは不思議がる。

一方ドロンコ魔女は、
2人を指差しながら「行けえ!」っと叫ぶと、
怪物達がアンパンマンとメロンパンナ目掛けて押し寄せてくる。


「きゃっ!」

「うわわわ!」


押し寄せてくる大量の怪物を前に、
アンパンマンとメロンパンナは逃げ惑う。

途中、アンパンマンはパンチやキックで応戦するも、数が多過ぎてキリがない。
一方メロンパンナは、
逃げるのに必死で中々反撃できないでいる。


「メロンパンナちゃん!」


逃げ惑うメロンパンナをカーナは心配する。
本来なら、飛んで行けるものの、相手が多過ぎて手出しが出来ないのだ。

いったいどうすれば―――


助けてー!ロールパンナお姉ちゃーん!!


そう思っていると、
メロンパンナは大空に響かんと言わんばかりの声で、
姉に助けを求めた。

すると…




シパパパパパ!

突如、何処からか黄色いリボンが振るわれ、
メロンパンナを追いかける怪物を、残らず打ち砕いた。


「あ…?」

「あ、あれは…?」


突然の攻撃に、ドロンコ魔女やカーナ、
そして、その場にいる者達は、リボンが振るわれた方向に目をやる。
するとそこには、ロールリボンを片手に携えた、
ロールパンナが浮かんでいた。


「ロールパンナお姉ちゃん!」

「ロールパンナ?あれが、メロンパンナちゃんのお姉さんの…?」


まさか、こんな形で彼女の姿を初めて見るとは、
カーナは何とも言えない気分だ。
一方、ロールパンナはメロンパンナの側まで近寄る。


「大丈夫か?」

「うん、ありがとう」


妹の無事を確認し、ロールパンナは一旦安堵の表情を浮かべると、
ドロンコ魔女をキッと睨む。
しかし、ドロンコ魔女は予想どおりと言いたげな表情を見せると、
指をパチンと鳴らして、残りの怪物を消してしまう。


「え?」


不可解な行動に、アンパンマンや一同はドロンコ魔女を見ると、
彼女はその疑問に答えるかのように口を開く。


「何でって顔してるわね?
だって、残るヒーローが来てくれたもの」

「残るヒーロー?まさか、私の事?」

「その通りよ、ロールパンナ。私のコレクションはね、
この星のパンのヒーロー全員を泥人形にして完成なの。
だって、そうすれば、私が一番強いって事になるじゃない?」

「そんな事は絶対にさせないぞ!」

「…!」


彼女の発言に、3人は身構える。
そんな状況でも、ドロンコ魔女はニヤっとした表情を崩さない。


「絶対そうさせてもらいます!」


そして、両手の間に大きい泥玉を作りだすと、それを3人目掛けて放つ。
アンパンマン達は、分散して避ける。


「ロールリボン!」


まずロールパンナがロールリボンを振って攻撃しようとするが、
ドロンコ魔女は座ったままほうきごとグルグル回って回避。
回避後、すれ違った彼女に対して指先から泥玉を放つも、
的が動いている為か当たらない。


「アンキーック!」


そこにアンパンマンが、
片足を突き出してドロンコ魔女に向かってくる。


「無駄だって!」


ビュゴォ――!

しかしドロンコ魔女は、
またほうきを振っての強風で、アンパンマンを吹き飛ばす。


「メロメロパーンチ!」


続けてメロンパンナが、
後ろからメロメロパンチを仕掛けようとする。


「そう来ると思った…」


どうやら予想済みだったらしく、
ドロンコ魔女は一旦ほうきから飛び降りた―――

と思いきや、
ほうきの後ろで浮遊するとギュンッ!とほうきを自身の目の前で回転させ、
両手に竜巻の様な泥玉を作りだす。


「ドロクロぉス!」


そして、竜巻の様な泥玉を合わせほうきに投げ付けると、
そこから増幅された巨大な泥の竜巻が発生し、メロンパンナに迫る。


「きゃー!」

「ローリングハリケーン!」


メロンパンナの危機に、
ロールパンナはすかさず彼女の前に出てロールリボンを回転させると、
気流による竜巻を起こして、巨大竜巻にぶつける。


「お姉ちゃん!」

「やるじゃないの…けど、いつまで持つかしら?」


そう、ローリングハリケーンとドロンコ魔女の巨大竜巻のパワーは両者互角。
どちらかが押し切られても、おかしくない状況だ。


「アンパンマン、今だ!」

「なに!?」


だが、ロールパンナが声を掛けると、
アンパンマンがドロンコ魔女に目掛けて飛んでくる。


「し、しまった。…どしぇぇ〜!」


アンパンマンが向かって来た事に驚き、
ドロンコ魔女は回避しようと慌てて竜巻を止めるも、
そのせいでローリングハリケーンがこちらまで飛んできてしまい、
竜巻に飲まれてしまう。


「アーンパーンチ!」


バコーン!

そして、竜巻に振り回されるドロンコ魔女に、ついにアンパンチが炸裂!
魔女は、「どっしぇぇー!」と情けない悲鳴と共に吹っ飛び、
海に落ちた。


「やったー!」


その様子を地上から見ていたカーナやジャムおじさんらは、
喜ぶが、その喜びも束の間に終わる―――


「うぬぬぬ…痛いじゃないのぉ……!」


何故なら、海の中からほうきに座ったドロンコ魔女が、
出て来たからである。


「まだやられていなかったか」

「当り前よ。この程度でやられてちゃ、
コレクション完成なんてやってらんないもの…」

「まだやる気なの?」

「もう止めるんだ、ドロンコ魔女。大人しくみんなを元に戻すんだ」

「出来ないわよ、そんな事。
だって私、まだ本気を出していなんだから!」


そう言うと、彼女は首から下げた目玉の飾りを引きちぎると、
帽子を取り去る。
すると、帽子の中から触手のような茶色い髪の毛と、
何かがあったような丸い跡がある額が顔を見せ、
ドロンコ魔女はその額の跡に目玉の飾りを押し付けた。


「うおぉぉぉぉぉ…!」


その瞬間、彼女の額から眩しい光が放たれ、
一同は思わず顔を背ける。

そんな中、ドロンコ魔女の体は目玉の飾りが押し当てられた部分を中心に、
泥のように変質して行き、
最終的には巨大な泥玉となって海に落ちる。


「え…?」


アンパンマンを始め、一同はこれから何が起こるのか分かりかねる。


ズゴゴゴゴゴ…!

と、思った所で、今度は地響きが起こる。


「な、何!?地震!?」

「あ…アンアーン!」

「どうしたのチーズ?…あっ!」


突然の地響きにバタコさんらが動揺する中、
チーズが指差す方を見ると、
ドザー!と音を立てながらドロンコ魔女が沈んだ辺りの海面が大きく盛り上がっている。


ギエーッヘッヘッヘ―――!!


そして、盛り上がった海面の中から、
劣悪な笑い声と共に巨大な怪物が姿を現わした。


「な、何アレ…!?」


怪物の姿に一番驚いたのは、カーナであった。


「あ、アレは!?」


一方、ジャムおじさんは、怪物の姿に見覚えがある様な反応を見せる。


「ジャムおじさん、知ってるの?」

「ど、ドロンコ魔王だ!」

「ドロンコ魔王?」

「何年か前、アンパンマンとみんなが戦った、
恐ろしい魔王だよ。それがどうしてここに?」

「…けど、ちょっと違うような気がするわ」


バタコさんの言う通りであった。

確かに、その怪物の姿形や色は、ドロンコ魔王そっくりだ。
だが、頭から下の辺りからは、5本指の手が付いた腕が2本生えており、
顔は下まつ毛が生えた鋭く吊りあがった目2つに、
額に丸い目がもう1つと、ムーマに近い顔立ちをしている。

また、口の中央には女性であることを強調するかのように、
紫色の口紅らしきものが付いていた。


「ど、ドロンコ魔王?いや、違う…君はいったい?」


一方、アンパンマンはその怪物が、
ドロンコ魔王そっくりである事に疑問を持つ。
すると怪物は、彼らに次の様に説明する。


「ゲヘヘヘ…貴様は覚えているようだな?我が父の事を」

「ち、父!?じゃあ、まさか君は…」

「ご察しの通り、アタシはドロンコ魔王の娘…
一族の王族の者ドロンコ姫よ!」

「ドロンコ姫…」

「あなたがドロンコ魔女の正体?」

「その通り。そして、アタシがこの星に来たのはもう1つ理由がある。
それは…」




「パパの仇を討つためよ!その為にアンパンマン、
貴様をもっとも惨めな姿の泥人形にしてくれるわ!」


ドロンコ姫は、アンパンマンを指差して言い放った。


「そんな事絶対させないわ!メロメロパーンチ!」


ここで、メロンパンナがドロンコ姫を止めようと、メロメロパンチを繰り出す。
しかし、ドロンコ姫はどう言う訳か防御行動を一切取らず、
無防備な格好のまま、彼女のパンチを受けた。


「!?」


ズブブ…

すると、どうだろうか―――

殴り付けたメロンパンナの手が彼女の体にめり込んだかと思えば、
めり込んだ部分から泥が溢れ、
メロンパンナの体を包みこんでいく。


「い、嫌あ!」

「メロンパンナ!」

「メロンパンナちゃん!」


その様子に、ロールパンナとカーナは叫ぶも時既に遅し。
泥に包まれたメロンパンナは、
瞬く間に泥人形と化してしまった。


「これでまた1つ…」


ドロンコ姫は、
自身の体から泥人形になったメロンパンナを引っこ抜くと、
展示台の空きスペースに直接彼女を置いた。


「メロンパンナちゃん…」

「メロンパンナ!うおぉぉ――――!


妹を泥人形にされた事に怒り、
ロールパンナは我を忘れてドロンコ姫に向かって行く。


「危ないよ、ロールパンナちゃん!」

ローラアァ―――!!


アンパンマンの制止も聞かず、
ロールパンナはロールリボンでドロンコ姫を攻撃。
その度にドロンコ姫の体に傷が付くが、
付けられたその場から再生して元に戻ってしまう。


「ギエーッヘッヘッヘ!無駄無駄…
アタシの泥の体はどんな攻撃を受けても、立ちどころに戻ってしまうのよ!」


そう豪語するドロンコ姫。

だが―――




「ギヘッ!?」


攻撃の一部が額の目に当たった瞬間、
ドロンコ姫は悲鳴を上げた。


「ん?」


急に攻撃が効いたのに疑問を感じたのか、
ロールパンナは彼女の額の目に目をやる。


「このおぉぉ―――!」

「! うわああぁ―――......!」


だが次の瞬間、ロールパンナはドロンコ姫の手で払い飛ばされ、
何処かへ吹き飛んでしまう。


「あら?アタシとした事が、ふっ飛ばし過ぎてしまったわ。

後で泥人形にしてやれば良いだけの事だけど…」

「ロールパンナちゃん!…うわ!」


ロールパンナに気を取られるアンパンマンだったが、
ドロンコ姫は口からゴォー!と泥の息を吐いて、彼を攻撃。

アンパンマンはとっさに避けるが、ドロンコ姫は尚も息を吐き続ける。


「(このままじゃ、うかつに攻撃できない。どうしたら…)」


何とかして、ドロンコ姫を倒す手立てを考えようとするアンパンマン。
だが、そのドロンコ姫はそんな事などお構いなしに、
今度は頭に生える無数の触手を伸ばして、彼を攻撃する。


「!」


アンパンマンは、掴まれまいと何とかして触手達を避ける。


「ふーん…だったら、これならどう?」


カァ――ッ!!

と、ドロンコ姫は額の目を閉じたかと思えば、一気に開眼。
すると、彼女の目から不気味な閃光が放たれた!


「うわ!」


突如放たれた光りに、アンパンマンは目が眩んでしまう。


「隙あり!」


バシ――ン!!

すかさず、ドロンコ姫はアンパンマンを沖合い目掛けてはたき落した。


「うわあぁぁぁ―――.....!」


ジャポーン!

そして、はたき落とされたアンパンマンは、
そのまま沖合いの海の中へと落ちて行った。


「これで奴をなぶれるわ!ギエーッヘッヘッヘッヘ!」


それを見て笑いながら、ドロンコ姫はアンパンマンが落ちた所に向かいつつ、
海中へと姿を消していく。


「あぁ、大変!アンパンマンが海に…!」

「イカン!バタコ、チーズ!新しい顔を焼くよ!」

「はい!」

「アン!」

「わ、私も手伝うわ!」


アンパンマンが海に没したのを見た3人と1匹は、
急いでアンパンマン号に乗り込むと、新しい顔作りを開始する。

果たして、海に落ちてしまったアンパンマンの運命やいかに…!



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