「…さあて、着きましたか」


両腕を腰に当てながら、一言こぼすさと見。

彼女の目の前には、外から見ても分かるほど暗く、
キノコの胞子らしきものが飛び交うジメジメしていそうな森の入り口がある。

これが、魔法の森の入り口である。


「何だか、健康に悪そうな雰囲気の森ね…でも、紅魔館に行く為ならこんなん安いモンよ」


そう豪語すると、さと見は一切迷わず魔法の森の中へと足を踏み入れる。

すると、彼女の目の前に、
周囲に生えているいかにも普通のものと違う見た目の茸から放たれる胞子による瘴気と、
追々と茂る木々によって日光を遮られた真っ暗な森が広がっていた。


「うえぇ〜…何コレ?ガチで不健康な空間が広がってるわ…」


予想通り名森の様相に嫌な顔をするさと見だが、
かと言って引き返す訳には行かず、森の奥へと足を進めた。





そして、歩く事数分後―――


「う〜…な〜んか地味に息苦しいわね、ここ…出口はまだなの…うわっ!?」


ボーっと愚痴りながら歩いていると、
さと見はグシャッと何かを踏んだ感触に思わず驚き、飛び跳ねる。


「な、なに今の!?」


さと見は恐る恐る自分の足下に目を移すと、そこには右腕が取れた人の形をした小さな何かの姿が目に入る。
初めは人か何かだと思い、ヒヤッとした表情を見せたが、
すぐにそれは蒼いメイド服に似た洋服に身を包み、
頭に赤いリボンを着けた、金髪のブロンドのロングヘアーが特徴的な青い瞳の少女の姿をした人形だと分かった。


「な、なんだ…人形か…でも、何でこんな所に?」


そんな疑問を抱きながら、人形と人形の右腕を拾いあげるさと見。
その人形を見て、「早く落とし主を探さなければ」と考えた。

と、その時―――



「…あら?アレは…」


ふと、さと見は向こう側に目をやると、暗い魔法の森の中で一際明るい光が見えた。


「しめた!きっと出口だわ!」


そう確信したさと見は、真っ直ぐ光指す方へと足を進め、そして―――



「…あ、あれ?」


さと見は、その光指す場所へ来てみたところ、そこには白く立派な洋館が建っていた。
そのうえ、周りの木々はその洋館をここに建てるのに邪魔な為か、広い範囲で伐採されており、
そのおかげでこの場所だけ日光を遮るものが少なく、空かは日の光が降り注いでいる。

そう、さと見が出口の光だと思っていたものの正体は、コレである。


「何だ、出口じゃないのか…」


落胆した様子でさと見は一旦洋館に背を向けるが、すぐに何かに気付き振り返る。


「ちょ、ちょっと待って!どうしてこんなトコに家があるのよ!?」


驚きの声を上げながら、さと見は早足で洋館に近付くと、まじまじと見ながらまた口を開く。


「お、驚いた…こんな居心地悪い所に住んでる物好きさんがいるとはね」


だが、これで何故森の中に人形が落ちていたのか、さと見は理解した。
恐らく、この洋館に住んでいる誰かが出掛けてる途中で落としたのだろう。
ならば丁度良い。

そう思ったさと見は、洋館の玄関まで歩み寄るとコンコンっと扉をノックする。


「ごめんくださ〜い!誰かいませんか〜?」


ノックしつつ、中にいると思われる洋館の住人を呼び出そうと声を掛けるさと見。
しかし、館の中から返事はおろか、誰かが出て来る気配も無い―――


「…変ね、誰もいないのかしら?いや、こんな不健康な森の中を頻繁に出歩くとも思えないし…
とすれば、寝てるのかもしれないわね」


と、勝手に決め込んださと見は、館の住人が起きるまでしつこいノックと声掛けを始める。


「お〜い!寝てるんならさっさと起きてくださ〜い!
あなたに渡したいものがあるんで〜す!だからさっさと起きて来てくださ〜い!」


だが、中の住人は出て来る気配は無い。
それでもさと見は、中に誰かいる事を信じ、ノックと声掛けを何度も続ける。
だが、それでも誰かが出て来そうな気配が全くない。


「うぉい!人様が何度も呼んでるのに何で出て来ないんだよ!?さっさと出て来いつってるだろーがあ!!」


次第に苛立って来たさと見は、言葉遣いもノックの仕方も乱暴になってくる。
だが、それでも誰かが出て来るような気配は全く感じられず、
何度も続けて行く内にさと見は声を上げ過ぎて息を切らし、そして何故か傷跡が付いた左目を閉じつつ、とうとうノックも声掛けも止めてしまう。


「はぁ…はぁ…はぁ…こ、これだけ呼んでも出て来ないなんて…本当に留守にしてるっぽいわね…」


ようやく住人の留守を理解したさと見は、
左目を閉じたまま残念そうな顔で「じゃあ、また後で来るとしましょうか…」と呟くと、洋館を後にするべく後ろを振り返った。

すると―――




「…ん?」


そこには先程までいなかったはずの少女が2人立っていた。

1人は色取り取りのキノコを一杯詰めたカゴを両手に持った、
リボンのついた黒い三角帽と黒系の服に白いエプロンを着用した、
魔法使い然とした格好をした金髪のロングヘアーが特徴の少女で、
もう1人は青のワンピースのようなノースリーブと、ロングスカートを着用した、
人形のように白い肌を持った金髪の少女であり、前者は無表情で、後者はジト目でさと見を睨んで立っていた。


「どわわわあぁ〜っ!」


そして、しばらく間を置いた後、さと見は2人の少女―――
特にジト目で睨んでいる方の顔を見て驚き、尻もちを着いた。


「き、貴様〜!いきなり私の背後に立つんじゃねぇ!ビックリしたじゃないかぁ!!」


尻もちを着きながらも、さと見はビビらされた事に怒ってか、
自身を睨む少女に右手の人差し指を向け、ブンブンと振る。

だが、当のさと見を睨む少女はと言うと、ジト目のままさと見を見降ろしながらこう言った。


「あら?人様の家の前で勝手に騒いでた貴女に言われたくないわね」

「…へ?」


少女の言葉に、さと見は一変してキョトンとした表情を見せる。


「(え?今人様の家って言った?て、事は…コイツがこの家に住んでる人って事?)」


そんな考えを張り巡らせ始めるさと見だったが、一方で少女はさと見に問いかける。


「…で、貴女は誰?見た所覚りのようだけど…ん?」


ふと、少女はさと見が片手に持っている人形に気付き、それに目をやる。


「あら、その子は?」

「…へ?ああ、この子?そこで拾ったんだけど…」

「そう。それで…」

「"この子をどうしようとしてたのか"って?決まってるじゃない。持ち主を探してたのよ。そしたら、この洋館見つけて…」

「なるほど、それでここにいた訳ね」

「ええ…それで、アンタはこの洋館の家主…のようね」


少女の心を読み、言い当てるさと見。
彼女の言葉に少女は無言で頷き、肯定の意を見せる。

それを見たさと見は立ち上がると、スカートに着いた土を払いながらこう続ける。


「なるほどなるほど。で、アンタが私の探してたこの子…このお人形の持ち主だと?」

「その通り。昨日、人形劇を終えて人里から帰る途中で落としちゃってね…」

「それで、ついさっき探しに出掛けて戻って来たと…」

「ええ。でも、まさか貴女が拾ってくれてるとは、思ってもみなかったわ」

「私も、こんなに早く持ち主に会えるとは思わなかったわ。…それより、早くこの子を返してほしいんでしょ?はい」


と、少女の思考を読んでか、さと見は人形を少女に差し出した。


「ありがとう」


それに対し、少女は感謝の言葉を暖かく送りながら、人形を受け取る。
しかし、腕の取れた人形の姿を見ると、途端に暗い表情を見せる。


「あ…ゴメン…多分それ、私が踏んじゃったから…」


少女の心が悲しんでいる事を瞬時に読んださと見は、申し訳なさそうに謝罪する。
だが、少女はと言うとすぐに暗い表情を元に戻しながら、こう答える。


「大丈夫、気にしていないわ。だいいちこの程度、すぐ直せるし」

「え?それは…本当のようね。今のアンタ、どっちかと言うと感謝の気持ちの方が強まってるみたいだし」

「さすがは覚り妖怪。分かるじゃないの」

「ど、どういたしまして…あ、それよりもまだ名前を教えていなかったわね。
私は、古石さと見って言う、可愛い可愛い二十歳の覚り妖怪よ。よろしくねv」

「は、二十歳…?」


二十歳を自称するさと見に、一瞬だけ困惑する少女だったが、すぐに改まり自己紹介を始める。


「私は、"アリス・マーガトロイド"。この森に住む魔法使いよ」

「へえ、魔法使いなの?そりゃ凄いけど…」

「…なに?」

「頼むから、私が自己紹介に二十歳って着けたくらいで困惑するの止めてくれない?
さっきも博麗の巫女に同じような反応されたばっかなんだから」

「……………」


やっぱり読まれてたか―――と思いつつ、アリスと名乗った少女は押し黙ってしまう。
一方、先程からずっと黙っていた魔法使いの格好をした黒い少女が、突然口を開く。


「博麗の巫女?お前霊夢に会ったのか?!」

「え?そうだけど…てか、アンタ誰?」

「私?ヘッヘッヘッ、良くぞ聞いてくれた!私は、博麗霊夢の親友の…」

「"霧雨魔理沙だ!"まりさ?まりさ…まりさ…」

「…?」


と、魔理沙の心を読み、彼女の名前を知った途端、
何故かさと見は顎に手を当てて何かを思い出すように魔理沙の名前を連呼し出し、
名前を連呼される本人は首を傾げる。
そして―――




「ああ、マリオね!」

「は、はあ?」


さと見は魔理沙達にとって聞きなれない名前を発し、
魔理沙は何の事か分からず呆気に取られ、アリスは特に表情1つ変えず黙って聞いていた。

そして、すぐに魔理沙はその名前が自分に向けられたものである事を思い出す。


「て…違う!マリオじゃない、魔理沙だ!まーりーさっ!」


思い出すや否や、抗議を開始する魔理沙。
対して、抗議されたさと見はと言うと、クスクス笑う様にこう返す。


「分かってるわよ。でも、その名前聞いたら、マリオを思い出さざるを得なくなっちゃってね」

「なんじゃそりゃ…つーか、マリオって誰なんだよ?」

「あら、知らない?スーパーマリオよスーパーマリオ。外の世界でとっても有名なゲームキャラクターよ」

「え?え?す、スーパーマリオ?外の世界のゲームキャラクター?」


マリオについて説明するさと見だが、外の世界の事情など全く知らない魔理沙はチンプンカンプンな様子であった。

それを見たさと見は、本当に幻想郷は外界と完全に隔絶した土地なのだなと実感しつつ、
マリオについてもっと詳しい説明を開始する。


「あのね、外の世界にはスーパーマリオシリーズって言う赤い帽子被った配管工のヒゲ親父が冒険する超有名ゲームがあるの。
で、そのヒゲ親父の名前がタイトルにもなっている"スーパーマリオ"こと"マリオ"。
そして、そんなアンタの名前が、そのマリオと一文字違いな訳よ」

「うえ〜…」


それを聞いてあからさまに嫌そうな顔をする魔理沙。
そんな彼女が今考えている事を、さと見はまたしても読みとる。


「"よりにもよっておっさんの名前で、しかもたかが一文字違いってだけかよ"
いいや、共通点はそれだけじゃないわ。ほら、アンタが持ってるそれ」


と、さと見は魔理沙が持っているキノコが入ったカゴを指差す。


「…何だ?コレがどうしたんだ?」

「実は、そのマリオって親父はキノコが大好きで、それとってパワーアップしたりするのよ。
だから尚更マリオを連想しちゃうのよね〜」

「えぇ〜…」


ますます嫌そうな顔をする魔理沙。

1人の少女として、ヒゲ親父と共通点があるのが余程不愉快である事は、さと見が心を読まずとも一目瞭然だった。


「ぷっ!ふふふ…!」


とその時、何処からか笑いを吹きだす声が聞こえる。


「!!」


すると、魔理沙は一切迷わずジト目でキッとアリスを睨む。


「あら、何かしら?」


だが、当の本人は平然とした顔をしながら、魔理沙に聞くアリス。
これに、魔理沙はこう答える。


「お前、今笑っただろ!?」

「いいえ、笑ってなんかないわ。気のせいじゃないの?」

「嘘言え。今はっきりと笑い声が聞こえたぜ?」

「だから、私じゃないわよ。でも…」

「でも…なんだ?」

「貴女に丁度良いあだ名になりそうね、そのマリオって…」

「何だと!?」


面白そうに答えるアリスの一言に、魔理沙はカチンと来た。


「お前、せっかく人形探し手伝ってやったってのに、何だそれ!?嫌味か!?」

「人形探しを手伝った?何を言ってるのかしら?私は貴女に協力を頼んだ覚えなんてないし、必要無いと言ったはずよ。
人の言った事を無視して勝手に着いて来ておいて、良い子ちゃん振らないで欲しいものね」

「なんだって?それはつまり、着いて来たのが有難迷惑だって言いたいのか!?」

「ええ、もちろん。しかもそんな臭いキノコまで持ち歩いて…私への嫌がらせかしら?」

「そんなつもり何てない!コイツは次の魔法の開発に使う為に集めてただけだ!」

「なら尚更貴女の家でも何処でも良いから、どっかやってくれない?私そのタイプのキノコ嫌いだっていつも言ってるでしょう?」

「無茶言うなって!まだ必要な数が揃って無いんだから!」

「じゃあ、こんな場所で油売ってないで、さっさとキノコ集めに戻ったらどうなの?」

「嫌だ!久々にお前に会えたのに、もったいない」

「何訳の分からない事を言ってるのかしら?私はずっとここにいるんだから、会う機会なんていくらでもあるでしょう?」

「あのな、そう言う問題じゃなくてな…!」


徐々に口喧嘩になり始める2人の魔法使い。

そんな彼女らの姿を見たさと見は、即座に今現在の彼女らの心の中を密かに探る。
すると、自分にとって面白い事を考えているのが見えたのか、何やら楽しげな表情を見せる。


「(うわぁ〜…何、この素直じゃないの?久々に萌えるわぁ)」


さと見がそんな事を心の中で呟く中、
あーだこーだ言っている魔理沙とアリスが、本格的に口喧嘩になりそうな雰囲気になって来る。


「(はっ!何て言ってる場合じゃ無いや)ちょーっと待ったぁ、お2人さん!!」


それに気付いたさと見は、待ったを掛けつつ2人の間に割って入り、こう続ける。


「初対面の妖怪の前で口喧嘩するのは止めてもらいましょうか?」

「あ…」

「何だって?!」


さと見の一言にアリスはハッとした顔を見せた後、自分を落ち着かせるような素振りで口を閉じるが、
逆に魔理沙の方はと言うと、怒ったようにこう言った。


「何言ってるんだ!元はと言えばお前が私に変な事言ったからだろ!?」

「そ、それはごめんなさい…私としてはからかったつもりだったんだけど…」

「お前なあ…からかうにしても限度ってものがあるだろ?!次からは気を付けて欲しいぜ」

「は、はい…」


魔理沙に怒られ、申し訳なさそうにしながら答えるさと見。

それを見て大体落ち着いたと判断してか、またアリスが口を開く。


「さて、さと見と言ったわね?貴女はいったい…」

「"何処から来たのかしら?"
そうね、一旦幻想郷から離れて帰って来た覚り妖怪と言った所かしら?」

「一旦幻想郷から離れた?
ああ、そう言えばこの前読んだ妖怪の本で、
覚り妖怪の幾つかが嫌われる事に耐えかねて幻想郷から逃げ出したものもいたとか書いてあったわね」

「そう!私はその内の1人だったって訳」

「なるほど…道理で外の世界のゲームのキャラクターとやらを知っている訳ね」

「でも、そうなるとひょっとしてお前…」

「"今の幻想郷の事に着いて余り良く知らないんじゃないか?"
その通り。だから今、幻想郷を巡る旅の第一段階として、紅魔館に行く途中だったのよ」

「へえ、紅魔館か。ふぅん、お前…」

「"そんな面白い所に行こうとしているんだな"
どう言う事かしら?…ああ、なるほど。そこには大きい図書館があるのね」

「ああ、紅魔館の大図書館は実に良いぜ」

「"あそこは宝の山だからな"
ちょっと同感かもね。私も外の世界でこっそりと図書館に行ったことあるけど、
図書館ってあんな本やこんな本までいっぱい置いてあるから、飽きないのよね」

「だろ?だから、絶対あそこはお勧めだぜ」

「ええ、行ってみるとするわ。アンタが今思い浮かべてる病弱の魔女とか小悪魔とかが気になるし」

「お?さすが覚り妖怪。そこまで読んでくれて助かるぜ」

「それはどう致しまして…
じゃ、私はこの辺でおさらばさせてもらうとするわ。それじゃあねぇ」


そう言いながらさと見は、魔理沙達に手を振ると、その場から立ち去った。


「じゃあな〜」


魔理沙も、手を振ってさと見を見送る。
そしてさと見がまた森の奥へと消えていくのを見計らうかのように、アリスは口を開く。


「何だか面白そうな妖怪が来たわね」

「ああ。ちょっと失礼な所があるけど、結構楽しい奴だな。同じ覚り妖怪でも、さとりとかとは大違いだぜ」

「ちょっと失礼?貴女が言えたクチかしら?」

「どう言う意味だよ、それ?」

「さあ、自分の胸に聞いてみなさい。
…それより、人形はもう見つかったんだから、さっさとどっか行ってくれないかしら?」

「な!?お前、まだそんな事言うのかよ!」

「何度同じ事を言えば分かるのかしら?私は協力なんていらないって言ったでしょ?
私なんかに構ってる暇があったら、そこら辺の臭い化け物茸でも集めてなさい。フンッ!」


そう言ってアリスはプイッとそっぽを向くと、さと見から渡された壊れた人形を持って、
洋館の玄関まで歩むと、鍵を開けながら扉を開けて館の中へと入って行き、
バタン!と乱暴に閉めてしまった。


「あ!おい…!たくっ、今の私は利用する価値も無いってか?ふざけるなよな、全く…!
こっちは親切で付き合ってやったって言うのに…!」


アリスの態度に、魔理沙は怒りと寂しさが入り混じったような表情で悪態を吐くと、
アリスの洋館から離れていく。
そんな彼女の後姿を、洋館の玄関の扉の隙間からこっそりと覗いていたアリスは、
「はぁ…」と溜め息を吐く。


「相変わらず素直じゃないわね、私…」


本当は手伝ってくれて、嬉しいはずなのに―――

アリスはそう呟いた。
そう、彼女は本当は魔理沙が人形探しを手伝ってくれたのは素直に嬉しかった。
だが、そんな自分の気持ちを素直に表せない自分がいた。

と言うのも、彼女は最初は魔理沙を心の底から嫌っていたのが原因であった。

今は、彼女の力量をある程度認め、異変発生時にたまに協力した事もあったが、
このような事を最初は思っていた事があり、
そしてその時から日常では魔理沙に先程のような態度を取り続けていたが為、
今でもあのような態度を取ってしまう。

完全に、ああいう態度を取るのが、癖になってしまったのだ。

それに、魔理沙の協力を頑なに断ったのは、もう1つ理由がある。
それは、自分の為に彼女の時間を潰したくない為。
魔理沙は全然気にしていないが、
アリスは魔理沙がしたい事は出来るだけ自由にやらせてあげたいと考えている。
だが、先の事もありついつい尖った態度で、跳ね除けようとしてしまう―――

言わば、素直になれない不器用な優しさ―――


そう言えば、あのさと見と名乗った覚り妖怪は、そんな自分の本当の気持ちに気付いただろうか?
いや、相手は相手がその場で考えている事を読み取る覚り妖怪。
自分が魔理沙と言い争いになりそうになったあの時、絶対気付いたに違いない。
そうでありながら黙っていた所を見ると、
そんな自分の気持ちを察して、あえて口に出さなかったのだろうか?

いや、あのはっちゃけた態度を取る性格からして、
もしかしたら面白そうでワザと黙っていたとも考えられる。

そう言えば、ノリで送り出してしまったが、
今の幻想郷に詳しくない彼女を1人だけで魔法の森を歩かせて大丈夫なのだろうか?
まあ、彼女は人間ではなく妖怪であり、そのうえあの性格なら案外大丈夫そうな気もするが―――
それに、もし出られなくなったのなら、探し出して保護すれば良いだけの事。
そうすれば今回の貸しも返せるかもしれない。

彼女が迷ってしまったらの話だが―――


「…て、こんな不謹慎な事考えちゃダメね。森から無事出られれば良いに越した事無いのに…」


と、最後の方の考えをアリスは改めると、
さと見が拾った自分の人形の修理をしなければいけないと考え、館の奥へと足を進める。


「さと見…この子を拾ってくれたお返し、いつか必ずしてあげるわよ」



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