「フゥ、やっと出られた…」


一方、アリスの心配は杞憂に終わっていた。
アリスと別れたさと見は、かれこれ数分近く森の中を歩いた末、迷いつつも抜け出せたのである。


「やれやれ、思わぬ不健康空間な迷いの森だったわねえ。
なーんか、外の世界のゲームの世界に入ったような気分だったわ。
…ん?」


ふと、彼女はある事に気付く。
微妙に視界が悪い―――と言うよりも、左側が見えにくい。
もしや―――

さと見は何かに気付いたように、左手で左目に触れる。
すると、彼女の左目に左手は映らないばかりか、
左手に左目ではなく、目蓋に触れた感触がし、同時に左目からも目蓋を触られた感触が走る。

そう、さと見の左目はずっと閉じたままだったのだ。
しかも、アリスの洋館でノックを止めたあの時からずっと。
にも関わらず、さと見はここに来るまでに自分の左目が閉じたままな事に、
何故か気が付いていなかったのである。


「はぁ、またか…」


だが、さと見はいつもの事の様に溜め息を吐き、
呆れた目付きで左目のある方に右目を向けると、
彼女は何と左手で無理矢理左目目蓋を引っ張り、こじ開ける。

すると、左目は開いたには開いたのだが、今度はパチパチと瞬きを繰り返し始める。
しかも、彼女の意思とは無関係に。


「………!」


それを感じたさと見は、ムッとした表情を見せた後、
パチン!と大きな音が鳴り響くほど力一杯に左目を引っ叩いた。


「いっつあぁぁ…!!」


そのショックで瞬きは収まるのだが、
叩く力を入れ過ぎたのか、左目の傷跡に響いたのか、左目に激痛が走り、
さと見は左目辺りを押さえてうずくまってしまう。


「うぅ…くっそぉ…最悪…!何で私が、こんな"障害"を…!
コレも、"アイツ"のせいだわ…!アイツのせいで、私のこの目は…いや、体は…!」


左目で痛む左目を押さえ、右手で服をグッと握りしめながら、誰かに対する憎悪を募らせた表情を見せるさと見。

今、彼女の頭の中にはある1人の男の姿が浮かんでいた。
男は、頭には赤い帽子を、服装は上が白で下は黒いもんぺのようなものを着用し、
片手には団扇に良く似た形状の金属質の何かを持っており、その何かには血で汚れていた。

それは言うまでも無く、さと見が憎んでいる相手―――
そう、彼女はこの謎の男の手により、左目に傷を負わされた。
そしてその後遺症として、時折彼女の意思に関係無く、
左目が勝手に動いてしまったり、
時々左目が動いた事を感じなくなってしまったりするなどの障害が残ってしまい、
先程のような事になってしまったのである。

彼女にとって、ここまでその男を憎みたくなる程の動機は無いのだが、
服も握りしめている事と、その直前の発言から、
どうにもまだ他に何かを負わされている様子だったが、
さと見は痛みが引いてか我に返ってか、平静さを取り戻すかのように立ち上がる。


「て…今はこんな事思い出してる場合じゃないわよね。とにかく、森を抜けたんだし、次は霧の湖ね」


そう言いながらさと見は、目を凝らして霧の湖を探す。
すると、すぐ目の前に霧が立ち込める湖が目に入った。


「あ…なーんだ、結構近くじゃん。ま、分かりにくいトコに無いだけ良いけどね」


そう言うと、さと見はその場から体を浮かばせると、真っ直ぐと霧の湖に向かって飛び出す。
そして数分もしない内に、彼女は湖上空に差し掛かる。


「ホント霧がある湖ね。うーん…神秘的ぃ」


湖に立ちこめる霧の神秘性を堪能しつつも、紅魔館探しは怠らない。
幸い、霧は余り濃く無かった為、さと見は遠くからでも充分岸が視認出来た。
そしてさと見は、片っ端から岸を探した。
だが、中々目的の紅魔館は見付からない。
それでもさと見は紅魔館を見付けるべく、探し続けた。

それから、しばらく探しまわって数分―――

さと見は、一件の廃洋館を見付ける。
見るからにボロっちいその洋館はどう見ても吸血鬼の貴族が住むような所では無かった為、
さと見は「私が探しているのはこんなボロい館じゃないのよ」と言って無関心。
無論、その時廃洋館に入って行く、
指揮者姿でトンガリ帽子を被った少年と釜らしきものに入った少女の姿も全く気に留めない。

そして、さと見は引き続き紅魔館を探そうと、廃洋館の反対側に目を向ける。
すると、その先にまたもう1つ、大きな建物が目に入る。


「ん?アレは…」


さと見は、その建物に近付いてみると、それは紅い色をした立派な館で、
しかも妖怪の山の麓にあった。


「うわぁ、立派な館。今度は間違い無さそうね。
…でも、まさか私が住んでた山の麓にあったなんて、これ何て言う灯台下暗し?」


さと見はまさかかつて自分―――
と言うよりも、覚り妖怪が昔住処にしていた妖怪の山のすぐ側に紅魔館がある事実に驚き、
拍子抜けもしたが、改まった様子で高度を落とし、紅魔館の外観を確認する。


「へぇ、さすがは貴族の館。ご立派なものね。
立派な時計塔に、整備の行き届いた綺麗な中庭。
外敵を寄せ付けない為の立派な塀に立派な門に…ん?」


と、門の辺りにまで目をやると、さと見は門の前に誰かがいる事に気付く。
それは、華人服とチャイナドレスを足して二で割ったような淡い緑の服を身に纏った、
赤い髪の少女が門の前を左右に行ったり来たりしながら、辺りを見回していた。

お馴染み、紅魔館の門番紅美鈴であるが、この時点でさと見は彼女の名前を知る由も無い。


「ふむ、門番も完備…か。
抜かりないわね。でも、何で洋物の館の門番がチャイナっ娘なんだろ?
…ま、いっか。見ればあの門番、良い胸してるし、良い生足してるし…
きっと脱いだら凄いんだろなぁ〜…ニヒヒヒヒ…」


そう言いながら妙にやらしい表情を浮かべるさと見。
だが、すぐに表情を元に戻す。


「…おっと、いけない。思わず見惚れてしまった。
とにもかくにも、あの娘に話しつけて中に入れてもらいましょっと」


そう思い、さと見は門の前に降下しようとするが、
何故か途中辺りで急に止まる。


「いや、ちょっと待てよ…
外の世界以来久々の大きな館なんだから、今までみたいに自分で探検してみたいわね。
しかも外の世界では絶対巡り会えない吸血鬼貴族の住まいな訳だし、
さっきの魔法使いの言うとおり、図書館とかなんとか、色々と面白いものがあるようだし…
よぉし…そうと決まれば、"コレ"の出番ね」


突拍子も無い事を考え付いたさと見は、
不敵な表情を浮かべ、左胸の第三の目の下を右手で撫でる。

どうやら、第三の目を使って何かをするようだが―――?





「右良し!左良し!上も良し!」


一方、門番美鈴は、真面目に門番業を営んでいた。
今日は眠気も余り無く、本人のコンディションはバッチリであった。


「今の所異常無ぁし。でも、油断できないのよね、あの黒い魔法使い。
いつ現れるか全く分からない訳だし、おまけに弾幕ごっこ強いし…
とにもかくにも、お嬢様の為、図書館の為、今日は負けてられないわ!
全力で頑張りますよぉ!」


ビシッ!と意気込みを見せる美鈴。
そしてその前を誰かが通りかかる。


「はいはい、お邪魔しますよ〜」


それはいつの間にやら降りて来た、さと見であった。
だが、何故か美鈴はすぐ目の前で声を掛けて来たさと見の存在に全く気付く様子が無かった。


「それじゃあ、引き続き見張っとかないと…」


そう言ってまた同じ動きを繰り返し始める美鈴。
この時、さと見はすぐ近くで堂々と門を開いて中へと入って行ったのだが、
何故かそれにすら気付かなかった。


「んふふ、上手く行った。やっぱ凄いわよねぇ、この力…」


あっさりと門の突破に侵入したさと見は、第三の目を見ながら、右手で撫でつつ呟く。
良く見ると、彼女の第三の目はその目蓋を閉じていた。
まるで、こいしの第三の目の如くに―――


「無意識を操り、相手に自分の存在を認識できないようにする…
まさか、軽ーく第三の目を閉じてみたら、全く別の能力が開花しちゃうなんて、
人生分からないものね。コレのおかげで、私はここに帰って来れた訳だし…
あ、でも心を読めなくなるのはちょっと痛いかなぁ」


そう、なんとさと見は、心を読む程度の能力だけでなく、
無意識を操る程度の能力まで持っていたのだ。
その能力の発動の性質はこいしとほぼ同じで、
第三の目を閉じ、覚りの力を封じる事で発動が可能となっており、そのうえ第三の目の強度が変化するのも同じ。
ただし、彼女の場合は幾つかこいしと違った点がある。

それは心を閉じてるか否か。

こいしの場合、覚りの力どころか心まで閉じ込めてしまっているのに対し、
さと見は覚りの力を封じる程度で心まで閉じていない。
その証拠に、彼女の第三の目は開いている時と色が変わっていない。
なので、第三の目を閉じている間に性格が変わったりはしないし、他の覚り妖怪に心を読まれなくなる事も無い。
とにもかくにも、さと見は第三の目を開ける事も閉じる事も、能力を切り替える事も自由自在なのだ。


「ま、いっか。…お?」


ふと気が付くと、さと見は中庭の奥に佇む、
紅魔館の正面玄関の大きな扉の前にまでやって来ていた。


「いよいよね。さぁて、中はどうなってるのかなぁ?」


そう言ってさと見は、玄関の扉を開けた。

すると―――?




「うわ…」


さと見は、扉の向こうを見て驚いた。
何故なら、そこには外観よりも明らかに広い空間が広がっていからである。


「な、何コレ?建物の大きさと合って無くない?」


何度か外と中を交互に除き紅魔館の中と外の大きさ、広さを確認するさと見。
無論、何度見ても同じ。
やはり外側に対して中はそれよりも広かった。


「どー見ても建物のサイズと一致してない…
あぁ、そう言えばゲームでこう言うの良くあるわよね。内と外で明らかに大きさと広さがあって無い建物やダンジョン…
て、私なんでゲームの世界と比較してんのかしら?ここは幻想郷、
ありえない事があるのが普通で、しかも私がいた世界なのに…
外の世界にいたせいで、感覚鈍ってるのかしら?」


そう言いながら、さと見は玄関の扉を閉めつつ中へと進む。
とりあえず、適当に前に見える廊下を真っ直ぐと進む。
すると、彼女はまたある事に気付く。

やはり、建物の大きさに相反して、中が広い事である。


「ん〜…やっぱり建物のサイズに対してこの広さ、どうしても気になっちゃうわね。
いったい、どうなって…ん?」


考えながら廊下を歩いていた所、さと見は廊下をせわしなく飛ぶ者に気付く。
それは、頭に赤いリボンと青いメイド服を着用した、薄い羽を持った黒髪の少女、妖精メイドだ。
しかも1人だけでなく、金髪で赤いカチューシャを着けた者や、
三つ網で眼鏡を掛けた者など、複数人飛んでいた。


「な、何コレ?妖精…
だよね?何で吸血鬼貴族の館のメイドさんが、妖精なの?
普通、ここはコウモリかコウモリが化けた人が普通じゃないの?」


まさか使用人が妖精だと夢にも思っていなかったのか、
さと見は驚きつつも、前に進んだ。
だが、その後も彼女の目に飛び込んで来る使用人は、
赤いメイド服の妖精メイドだったり、
変な帽子を被った緑色のメイド服を来た妖精メイドだったり、
お姫様カットしたピンクのメイド服の妖精メイドだったりと、妖精メイド尽くしだった。


「お、おかしい…外のチャイナっ娘と言い、コイツらと言い、
本当にここ吸血鬼貴族が住んでる館?
一応中はそれなりに暗いけど、ん〜…」


自分の思い描いていた吸血鬼貴族の館と大分違っていたのか、
徐々に「入る家を間違えたのではないか?」と不安になってくるさと見。

だが、この次に現れた人物の存在により、その不安はすぐさま消し飛ばされる事となった。


「うあぁぁん!!」

「泣いてもいけません!とにかく、今日もパチュリー様にキツイお灸をすえてもらいますよ!」

「?」


丁度廊下の分岐点に差し掛かったところ、
誰かの声が聞こえると同時に、さと見の目の前にジタバタと泣き叫ぶショートヘアの小さい少女を引きずる、
ロングヘアの少女が通り過ぎる。
その2人は、似たような容姿で頭と背中にコウモリのような羽を生やしていた。

小悪魔の姉妹だ。


「ああ、そうそう。吸血鬼貴族の館と言えば、今のような悪魔っ子がいなくちゃいけな…悪魔?!」


と、さと見は急いで確認するかの如く、
小悪魔の姉が通り過ぎて行った先を見る。
すると、連れて行かれる小悪魔の妹と小悪魔の姉の姿がはっきり見える。


「間違いない。アレは神綺様の魔界の悪魔、それも小悪魔だわ。
そう言えば、魔理沙も紅魔館の図書館の話をしている時に、
小悪魔の事を思い浮かべていたわね。
…て事は、やっぱりここは紅魔館ね。よかった」


ホッと胸を撫で下ろすさと見。
だが、その間に小悪魔姉妹は向こうの曲がり角を曲がってしまう。


「うお!いけない、あの2人を追わないと!あの2人の行く先に、大図書館があるはずよ!」


それを見た途端、さと見はレミリアの次に気になっていた大図書館に行こうと考え付いたのか、
急いで向こうの曲がり角まで飛び、小悪魔姉妹の追跡を開始。
最初にその曲がり角を曲がった所、次に向こうの分岐点を右に曲がる姉妹の姿が映り、
さと見は急いで分岐点を右に曲がる。
すると、また今度は曲がり角を左に曲がる姉妹の姿が見え、
また急いで角を左に曲がると、また分岐点を曲がる姉妹の姿が見え―――
が交互に続いた。

そして―――



「うああぁぁぁぁん!やだやだ!戻りたくなーい!!」

「こら、ワガママ言わないの!」


さと見がしばらく追跡を続けた所、姉妹は地下に続く階段の前まで来ており、
小悪魔の姉は相変わらず嫌々言う妹を叱りながら引きずり、共に階段を下りて行った。


「ふーん、大図書館って地下にあるんだ。何か、秘密の書物の隠し場所みたい」


図書館へ続く階段の前まで移動し、ワクワクと胸を躍らせつつ、さと見はその階段を降りて行く。
そして長い階段が続く事しばらくして、さと見の目の前に大きな扉が姿を見せる。


「うおぉ!ますます秘密の場所と言わんばかりの大扉!もーワクワクしちゃう!」


妙に興奮しながら、さと見は扉をゆっくり開き、図書館の中へと進入。
すると彼女の目に、見上げるほどの高さのある程の本棚が立ち並ぶ、
広い空間が飛びこんで来た。


「うっはー!本が山のようにある!すげぇ!!」


驚きと興奮のあまり、口調が砕ける(元から砕けてる様な気がするが)さと見。
それから彼女は、右目を輝かせながら、本棚に納められた本を眺めながら歩き始める。


「魔理紗の言うとおりだわ、実に素晴らしい!
多分、今まで言った事のある図書館で一番かもしれないわね。でも、どんな本があるのかしら?
ちょいと拝見…」


そう言ってさと見は、適当に近くの本棚から本を一冊手に取る。
まず最初に彼女が手にしたのは、魔導書だった。


「えーとコレは…ま、魔導書!?し、しかも本物じゃんコレ!」


本物の魔導書があるとは思ってなかったのか、さと見は魔導書を見た途端驚く。
そして試しに他の本棚の本を確かめてみると、
そこには幾多にも渡るの魔導書の姿が確認出来た。


「うわぁ…道理であの魔法使いが良い所だとか言う訳だわ。
こりゃ魔法使いにとっちゃ宝の山だわ、コレ。
でも、図書館は多種多彩な本が置かれてる事に定評がある施設。
だからこんなのばっかじゃないはずよ」


そう言いながらさと見は魔導書を戻すと、また本棚を見ながら歩き出す。
そんな彼女の目に飛び込んで来るのは、魔導書ばかりであった。


「ん〜…やっぱり魔導書しかないわね…あれ?」


とさと見が思ったその時だった。
彼女はある一冊の本を見て足を止める。
それは、他の魔導書とは明らかに柄の異なる本であり、魔導書では無いのは明らかだった。


「こ、コレは…ひょっとして…」


さと見はその本に見覚えがあるのか、その本を手に取ってみる。
すると、彼女が手に取ったそれは、20年以上くらい前のオカルト雑誌だった。


「あぁーやっぱり!
コレ、私が19年前に無くした雑誌だ!こんな所にあったなんて…ん?」


自分が所持していたオカルト雑誌との再会に驚くさと見だったが、
無意識にまた本棚の中にある一冊―――
否、6冊程の分厚い本が目に入った。


「あれ?も、もしかして…」


その本にも見覚えがあるのか、さと見はその本を6冊一気に手に取る。
それは、何処かSFチックな表紙が特徴的なデカい漫画本だった。


「うわぁ!やっぱり、AKIRAだコレ!
でも何でここにあるの?コレって確か、今も人気者だったはずなんだけど…
いや、でも忘れられたとか関係無しに、偶然結界越える事もあるから変じゃないか。
でも、こんな所にあるなんて、意外だなぁ。
もし、マミポンがこっちに来る事があったら、この事教えとかないと。
アイツ、外の世界の漫画でコレが一番好きだって言ってたし…ん?」


ふと、さと見はAKIRAなる漫画本が置いてあった辺りのすぐ隣にある雑誌の存在に気付く。
その雑誌は結構前のファッション雑誌のようで、
その雑誌もさと見にとって見覚えのあるもののようであった。


「あ、コレ10年前、猫娘と一旦木綿に貸すと言った翌日に無くしたファッション雑誌だ。
はぁ、コイツまでここにあるとは…
となると、やっぱりここは私が見た中で最高の図書館ね。懐かしいもの一杯だもの。
ヘタすりゃ外の世界の本屋、古本屋よりも品ぞろえ良いかもね。
よぉし!次来た時は懐かしい本を可能な限り一杯借りてやるわ!」


そう意気込みながら、さと見は見付けた本を全て本棚にしまう。
理由は言うまでも無く、怪しまれないため。
今の彼女は、こっそりと紅魔館に入った侵入者に等しい状態。
無断で入って無断で本を持って行くと色々と都合が悪いのだ。
つまり、彼女はちゃんと図書館で本を借りる際のマナーを心得ているのだ。

それだけ、外の世界ではちゃんと本の貸し借りをしていたのであろう。


そして、彼女が本を戻し終えた直後、自身の頭上に2つの人影が飛んで来る。


「ん?」


さと見は、飛んできた人影の正体を確かめようと上を見る。
すると、そこにいたのは小悪魔が2人いたのだが、
その1人は半袖のズボンと半袖の服を来た黒髪の少年、もう1人は先程の小悪魔の姉と良く似た服装に、
何故か青いマントを着用した黒髪の少女の姿をしており、先程の姉妹とは別の小悪魔だった。


「ふーん、ここにいる小悪魔は、さっきの2人だけじゃなかったようね」


そう言いながら2人の小悪魔を見るさと見。
一方、2人組の小悪魔は本棚の見回りに来ていたのか、
さと見の周りにある本棚の本の並び方を一通り確認した後、別の本棚へ飛んで行った。


「行ったようね…でも、さっきの小悪魔は何処行ったのかしら?」


飛んで行った小悪魔を見ながら、
さと見は思い出すかのように姉妹の方の小悪魔の事が気になり、
今度は彼女らの行方を探すべく、歩き始める。

そして、しばらくして図書館の奥辺りまで差し掛かった所、
さと見はある本棚の間の向こうの何かに気付く。
その本棚の間の先にはテーブルがあり、そこの3つの人影があった。


「あそこにも、誰かいるようね…」


そう思ったさと見は、その先へと足を進める。
すると、3つの人影やその先の様子がはっきり見えて来る。

本棚の間の先は、テーブルを置く為か本棚が極力避けられて置かれており、
同室の中では割と広々としていたが、テーブルや床には本が幾つも重ねられており、
そこも本にまみれている印象であった。
一方、人影の方はと言うと、3つの内2つは先程この部屋に続く階段を降りて行った2人―――
つまり、さと見が探していた小悪魔姉妹。
対して残る1つの人影は、ネグリジェのような服を身に纏った紫色の髪の少女で、
手前の小悪魔姉妹と違いテーブルの奥にある椅子の上に座っていた。

この図書館に引き篭もっている魔法使い、パチュリー・ノーレッジだが、
今の彼女の顔は何処か具合が悪そうであった。


「あ、いたいた。でも、奥にいる病弱そうなのは?見た所小悪魔では無いようだけど…」


だが、まだこの時点でさと見はパチュリーが魔理紗の言っていた病弱な魔法使いだと言う事に気付いていない様子。

そんな事よりも、さと見は目の前にいる小悪魔の姉とパチュリーが何やら会話をしている事に気付き、
その内容を探るべく、一番近くまで歩み寄り聞く耳を立てる。


「…と言う訳なのです、パチュリー様。
この子が台所の蛇口に悪戯したせいで、咲夜さんはあわやずぶ濡れに…」

「……………」

「そう…ゴホッ!それで、咲夜は大丈夫なの?ゴホッゴホッ!」


喋る度に咳き込むパチュリー。
どうやら、今日は喘息が酷いようで、そのせいで具合が悪そうな顔をしていたようだ。


「あらら、これは酷い。この娘、相当病弱者ね。喘息にでもかかってるのかしら?
…ん?て事は、ひょっとしてこの娘が魔理紗が言ってた、図書館の病弱な魔法使いってこの娘の事?
ん〜…確かに良く見れば、何か魔法を使いそうな雰囲気ね」


ここでようやくパチュリーが病弱な魔法使いの正体だと言う事に感付いたさと見。
一方、無意識を操られてさと見の存在に気付けないようになっているパチュリー達は、
そんな事など露知らず、話しを続ける。


「ええ…後で着替えて来ると言ってましたし、特に風邪もひいてる様子も無かったです。
ま、例え彼女の身に何かあったとしても、お嬢様が何とかしてくれるでしょう」

「そうね…ゴホッ!それじゃあ、次は貴女ね、小こあ…ゲホッ!」

「ヒッ!」


パチュリーは、病弱ながらもそれなりに鋭い目付きで、小こあこと小悪魔の妹を睨む。
すると、小悪魔の妹は、背筋をゾクッとさせた。


「全く…ゴホゴホ!
この前慧音達が来た時に悪戯して叱ったばかりだったのに…ゲホッ!
ホント…何で、懲りないのかしらね?ゴホッ!」

「ご、ごめんなさい、パチュリー様!」

「謝ってもダメ…ゴホッ!
うぅ…本当ならお仕置きと行きたい所だけど、ゲホッ!
今日は、喘息が酷いから、止めにしとくわ…ゴホゴホッ!
そ、その代わり、罰として今日一日1人でこの図書館の見回り及び、本棚の確認を、しなさい…ゲホゲホ!」

「え、えぇ、そんなぁ!」

「あ、あら?貴女、私にそんな事が言える、立場なの…?ゲホッ!
ハァハァ…お仕置きされないだけ、まだマシだと思いなさい…ゲホゲホ!」

「うぅ…わ、分かりました…」

「分かったなら、ゲホッ…早く持ち場に行きなさい…ゴホッ!
他の仲間にも、ちゃんと言うのよ…ゲホゲホッ!」

「はぁい…」


結局小悪魔の妹は一旦抗議したものの、結局逆らう事が出来ず、
落ち込んだ様子で、それでいて渋々した様子でその場から飛んで行く。
パチュリーの指示通り、図書館の見回りと本棚の確認に向かったのだ。


「うわぁ、凄いこのパチュリーって言うの。
こんなに弱っているのに、あの小悪魔が逆らえないなんて」

「うっ…!」


と、さと見が小悪魔の妹が逆らえない程のパチュリーの威厳に感心したのもつかの間だった。
突然、パチュリーはガクッ!と音を立てながら、テーブルの上にひれ伏してしまう。


「あっ!」

「パチュリー様!」


小悪魔の姉は急いでパチュリーの下へ駆け寄る。


「だ、大丈夫ですか!?」

「ハァ…ハァ…こ、こあ…ゲホゲホ!今日は、とびきりに調子が悪いみたい…ゲホッ!
く、苦しい…」

「それじゃあ、今すぐ喘息薬入りの紅茶を淹れて来ます!」

「え、えぇ…ゴホッ!た、頼むわ…ゴホゴホゴホ!」


苦しそうな声、苦しそうな表情で心配そうにする小悪魔の姉に、そう答えるパチュリー。
これ、小悪魔の姉は早くパチュリーを楽にさせようと、紅茶を淹れに、一旦その場から立ち去った。


「ふぅん…どうやら、このパチュリーと言う病弱魔法使い、
時に信頼され時に恐れられる小悪魔達のボスと言った所か。病弱と言えど、さすがは魔法使いね。
でも…」


そう言いながらさと見は、パチュリーに歩み寄る。
すると、今の彼女は苦しそうな顔でハアハアと息を切らしていた。


「やっぱり、可愛い…
この病気に苦しむ顔、最高にいやらしい…まあ、それを取っても普通に可愛いんだけど」


苦しむパチュリーの姿を見ながら、ほんのりと顔を赤くし、ニヤけるさと見。
どうやら、彼女が気に入ってしまったようだ。
一方、パチュリーは未だに苦しんでおり、今度は喉辺りに手を当ててゴホゴホ咳き込んでいた。
さと見はしばらくその姿を眺めていたが、その際ある事に気付く。


「にしてもこの子の肌、柔らかそうねえ。
…ちょっとだけ、触っても良いよね?」


さと見は、自分の右手人差し指を見ながらそう言うと、
その右手をパチュリーの頬に近付け、人差し指で触れてみる。
すると、予想通り柔らかい肌の感触が伝わってくる。


「うわぁ、柔らかい…つーか、プニプニしてる。
赤ちゃん肌みたい」


パチュリーの肌の感触に、さと見はもう少し触ってみたいと思い、
今度は人差し指でなく、右手で直接パチュリーの頬に触れる。
すると、今度はサラサラと心地よい感触が伝わってくる。
一方、触れられているパチュリーの方はと言うと、
無意識を操られ、触られている事に気付かないようにさせられている為、
相変わらずテーブルの上で苦しそうにしていた。


「凄い…この子、こんなに良い肌してるなんて…
そうだ、胸はどうなってるのかしら?」


次にさと見は、パチュリーの体を起こし、胸に目をやるが、
特に出っ張っている様子は無い。


「貧乳か…
いや、着痩せしてるだけかも。どれ…」


そう思って、今度は胸に手をやり、触れてみる。
すると、大きくて丸い何かが触れる感覚が走る。


「ビンゴ!やっぱり着痩せしてるだけね。
この子、見かけによらず結構デカい胸してるわ」


そう言いながら、さと見は何度か胸を揉んでみると、
やはり大きくて丸いものに触れる感触がする。
そして、この一連のさと見の行動に、無意識を操られたパチュリーは苦しそうにしているばかりで、気付いていない。


「ああ、凄い…服越しでこの手触り、文字通りの大物ね。
でも、勿体無いなぁ、こんなに胸おっきいのに、こんな気痩せしやすい服なんか着ちゃって…
おかげで、見た目的な大きさまでは分からないわ。
…あ、そうだ!ニッシッシ…」


何か良からぬ事を思い付いたさと見は、怪しい顔で笑うと、
突然、パチュリーに近付くとその体を抱き上げて、ゆっくりと仰向けに床に寝かせる。
言うまでも無いが、パチュリーは無意識を操られている為、この事に気付いていない。

そして、さと見はパチュリーを完全に寝かせるや否や、
ネグリジェのような服を、胸の辺りまで捲くり上げる。
すると、その下から素っ気ないデザインの白いブラジャーに覆われたふくよかな胸と、
下半身を隠すドロワースが顔を見せる。


「うわ、すっご…
やっぱり触るのと見るのじゃ大違いだわ。
少なくともこの大きさ、普通の女の子の二倍くらいありそうだわ…」


そう言いながら、まじまじとパチュリーの胸を見つめるさと見だったが、
見ている内に、また良からぬ考えが思い浮かんでくる。


「…そうね、ここまでやっちゃったんだし、
いっその事ブラジャー脱がしちゃおうかしら」


そう、さと見はパチュリーの胸を覆うブラを取っ払おうと考えたのだ。
彼女自身、本当なら見た目的な大きさを確かめられればそれでよかったはずだったのだが、
実際に彼女の胸を見てみると、
今度は何も着けていない素の状態の胸も見たくなってしまったのだ。

さと見は、その姿を誰にも見られまいと、無意識を操る力を最大限に強める。
そしてそれを行った後、さと見はドキドキと胸を高鳴らせながら、
パチュリーのブラに手を伸ばす。

だが、その時!



「パチュリー様ぁ、喘息薬入りの紅茶を持って来ました」


向こうから小悪魔の姉の声が聞こえ、足音がこちらに近付いて来る。
どうやら、紅茶を淹れて戻ってきたようだ。


「!やべっ…!」


その声を聞き、さと見は強めていた力を元に戻すと、反射的にその場から離れる。
それと同時に、紅茶を乗せたトレイを片手に、小悪魔の姉がやって来る。


「あれ?ぱ、パチュリー様、いったいどうし…っ!!」


床に仰向けになっている主人を見て、
小悪魔の姉は何かあったのではないかと思い、急いでパチュリーの下に駆け寄ったのだが、
近くまで来てみると、その主人は服を捲くり上げられ、
下着を晒したあられもない格好になっている事に気付き、
小悪魔の姉は顔を真っ赤にし、思わずトレイを落とし掛ける。


「ん…ん〜、むきゅ?あれ、私、いつの間に床の上に…?」


一方、当の本人はと言うと、
まるで寝起きのような言動を取りながら、ノロノロと体を起こす。
その際、捲くれ上がった服が重力に引かれて、元の位置まで戻る。


「おかしいわね…ゴホッ!さっきまでここに座ってたはずなんだけど…ゲホゲホ!」


しかし、当のパチュリーは、無意識を操られているいない関係無しに、
その事に気付いていないのか、まるで何も無かったかのように、
自分が床に寝かされる事に疑問を抱く。
そしてその直後に、真っ赤な顔で固まっている小悪魔の姉に気付く。


「あら、こあ…紅茶持って来てくれたのね…ゲホゲホッ!」

「…はっ!はい、そうです!」

「ありがとう…本当に、貴女は良く働いてくれるわ…ゲホッ!」


咳き込みつつ小悪魔の姉を褒めるパチュリーは、
重々しい足取りで彼女の前にまで歩み寄ると、静かに手を差し出し、
小悪魔の姉もトレイに乗せてあった紅茶入りのカップを無言で手渡す。

だが、パチュリーの下着姿を見てしまったせいで、胸がドキドキしているのか、
カップを手渡す小悪魔の姉の顔は真っ赤のままであった。


「…?どうしたの、こあ?ゲホッ…顔が真っ赤よ?」


そんな彼女の顔色に気付いたパチュリーは、率直に問いかけるも、
小悪魔の姉は「何でもありません!」などと言って誤魔化す。
そんな彼女の様子に、パチュリーは首を傾げながらテーブルの椅子に戻って、紅茶をすするしかなかった。

一方、小悪魔の姉は主人に背を向け、未だ赤い顔を両手で押さえながら、こう考えていた。


「(あぁ…私、またパチュリー様の下着姿を、しかもこんな昼間に見ちゃった…
ど、どうしよう…今夜、眠れなくなっちゃう…
昨夜、一緒に遊んだばっかなのに…ホント、どうしよう…)」





「ふぅ…危ない危ない。
さっきの奴らはともかく、紅茶持ってるアイツまでパチュリーを見えないようにしたら、
ややこしい事になりそうだからね…」


そう言って、いつの間にか本棚の上から見下ろすように2人の様子を見るさと見。

そう、あの場面でさと見が力を弱め、離れる必要はなかった。
先の通り、あの時のさと見は、無意識を操る力を強めていた為、
小悪魔の姉の目を欺くことだって出来た。
だがあえてそうしなかったのは、小悪魔の姉が紅茶を持ってくる事を知っていたからだ。
もしも、せっかく紅茶を持って来たのに、
主人の姿が突然消えたとなれば騒ぎになる、そう思ったからだ。


「しかし、残念ね。後ちょっとでパチュリーの生乳が見れたのに…
ま、あの子がボインちゃんだって分かっただけでも良しとしましょうか。
そもそも、本来の目的はこっちじゃない訳だし、
この力もあるんだから、また別の機会に覗き見してやれば良いだけの事よ。フフフ…」


そんな事を言いながら、さと見は怪しく笑う。


「さて、とりあえずここの視察はこれくらいにして、そろそろ行きますか」


そして、長居は無用と言わんばかりに、さと見は大図書館から出て行くのであった。



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