「さてと…キリ良く図書館から出た所で、次はお目当てのレミリア様でもさがしましょうかねえ」


地下の大図書館から上の階まで戻ってきたさと見は、
紅魔館の廊下を進んでいた。


「しっかし、進んでみれば見るほど外観により広い館ねえ。
ひょっとして、漫画とかでよく見る、空間を捻じ曲げて拡大してる〜、何て事あったりして…
まあ、それは置いといて…」


と、さと見は急に足を止めると、
用心深く床を見回したり、壁に手を触れ、触れた手の平を見たりして、何かを確認する。


「やっぱり…さっきから気になってたけど、ホコリもゴミも全く無い。
きっちりと整備が行き届いているわ。まあ、あれだけの妖精がいたら、当然…だけど。
何かさっきの様子を見てると違う様な気がするのよね…」


顎に手を当て、疑問符を浮かべるさと見。
だがその時、何処からか話し声が聞こえて来る。


「たく…また……くれたわよね…」

「そうね…」

「?」


話し声に気付いたさと見は、声がする方を振り返る。
振り返った先には僅かに開いているドアがあり、
その向こうには台所とそこでせっせせっせと何かをしている妖精メイドの姿が見え隠れしていた。


「アレは…」


それに気付いたさと見は、ドアまで近付き隙間から中を覗く。
すると、台所の床は明らかに水浸しになったような跡があり、
3人程の妖精メイドの内2人が雑巾やモップで掃除し、
1人は食器を棚に片付けていた。

そして、この妖精メイドもグルグル眼鏡を掛けた小柄、
特に何の特徴も無い小柄よりも背が高い、髪を後ろに括った長髪で小柄より背が高い方よりも背が高いと、
やはり見た目にそれぞれ個性があった。
(ちなみに、その内眼鏡を掛けた小柄な方と何の特徴も無い方が掃除を、
残る背が高い方が食器の片付けをしている)

「はぁ…ホント、あの小悪魔のチビには困ったものですよね」


と、眼鏡を掛けた小柄な妖精メイドが愚痴をこぼす。
これにさと見は「アンタもチビだろ」と突っ込んだのは言うまでも無い。


「そうね。
アイツのせいで私達が咲夜さんに代わって、
台所のお掃除しなきゃならないなんて…」

「ま〜ま〜、そんな文句言わなくてい〜じゃないの〜。
あの人のおかげで、私達が楽出来るのは認めるけど〜」

「咲夜さん?あの人のおかげで楽できる?」


続けて特徴が無い妖精メイドも愚痴をこぼした後、
背が高い妖精メイドがおっとりした声でなだめつつも、何かを肯定するような発言をする。

そして、その話を聞いたさと見は、
つい先程の小悪魔の姉がパチュリーに報告していた際、
妹の悪戯で咲夜がずぶ濡れになったと言う話を思い出す。


「あ、そう言えば、さっきあの小悪魔が咲夜さんがどうとか言ってたわね。
でも、咲夜さんって誰?
それに、あの人のおかげで楽できるって事は、
もしかして、この館掃除とか色々やってるのって、咲夜さん?」


思考を張り巡らせるさと見。
すると、彼女は咲夜に対する興味が沸いて来る。


「気になるわね、その咲夜さんって…
ちょっと探してみましょっと」


そうして、さと見は咲夜を探そうと動き始めた。


「とりあえず、ずぶ濡れになったとか言うんなら、
きっとお風呂場でシャワー浴びるか、自分の部屋とかで着替え中…
て、所かもね。ま、適当に…ん?」


ふと、さと見は床を見てみると、床に水の跡らしきものがあり、
それは台所から廊下の向こうまで続いていた。


「…いや、適当に探す必要無しと」


それを見たさと見は、ニッと笑みを浮かべると、水の跡を辿り廊下を進む。

そして辿る事しばらくして、彼女は1つの部屋の入り口に辿り着く。
その部屋の入り口のドアは、他の部屋と違って金色のプレートが掛けられており、
床の水の跡はそのドアの向こうにまで続いていた。


「ん?コレは…」


ドアの前に立ったさと見は、
今まで辿ってきた床の水の跡よりも、ドアのプレートに目が行く。
そのドアのプレートには、6文字の英語が刻まれており、
"SAKUYA"と刻まれていた。


「エスエーケーユーワイエー?サ、ク、ヤ…
咲夜!なるほど、ここは咲夜さんの部屋って事なのね!
よっしゃ当たりー!」


お目当ての人物の部屋が見付かり、さと見はガッツポーズを決める。


「じゃ…ちょーっとだけ覗いて見ましょう…」


そして、さと見はゆっくりと部屋のドアを開けた。

すると―――




「はぁ…全く、酷い目に遭った…」

「!?」


さと見はドアの向こうの光景に驚き、目を丸くする。

何故ならそこには、やれやれと言った様子でクローゼットを漁る銀髪の少女がいたのだが、
その少女は胸に可愛らしいレースが入ったブラジャーに、下は白いショーツ、
そして左脚太ももに緑の柄のナイフを収納した黒いホルスターだけを着用した、下着姿だったからである。


「な!ちょ…えぇぇぇぇぇ!?」


まさかいきなり刺激的な光景が飛んで来るとは予想していなかったさと見は、
喜ぶよりも驚きが大きく、動揺してしまう。


「なな、なんで下着姿ぁ!?」

「…!」


ヒュンッ!

と、さと見が大声を上げた次の瞬間!
少女はさと見の声が聞こえたのか、
素早くホルスターからナイフを抜くと、さと見目掛けて投げた。


「わっ!」


それを見たさと見は、素早くドアを閉める。
すると、投げられたナイフはドアに突き刺さった。


「いない?」


標的にナイフが刺さらなかったのを見た少女は、
ドアに近付いて片手でナイフを抜き、そのまま構える。

それから、注意深くドアの周りを見て誰もいないのを確認すると、
今度はゆっくりとドアを開けて、廊下に顔を出す。

すると、ドアのすぐ向こうにいるさと見のすぐ目の前に、少女がやって来る形になる。
だが、未ださと見は無意識を操っている為、
少女はすぐ目の前の彼女に気付く事無く、廊下の左右を見回す。

その結果、少女はさと見の目の前に、
ほとんど素肌を晒した肢体を見せるような格好になってしまう。


「う、うわぁ…」


目の前に晒された少女の体に、さと見は釘づけになってしまう。


「凄…
腰とかほんの僅かだけど引っ込んでるし、胸もそれなりに出っ張ってて良い感じ。
まだまだ体形に子供っぽい部分はあるけど、これは期待できるわね」


少女の体形を評価するさと見。


「…気のせいね。それに良く考えてみたら、
誰かいたらドアが開く音が聞こえるはずだしね」


一方、そんな事をされているなど知らない少女は、
そう言いながらホルスターにナイフを戻し、
ドアを閉めて部屋の中へと戻って行った。

これに、さと見はホッと安堵する。


「ふぅ…ちょぉっとだけ、危なかったわねえ。でも、なんで私の声が聞こえたのかしら?」


疑問を抱くさと見は、そう言いながら自らの左胸の第三の目を見ながら、
右手で優しくなでる。第三の目は今もなおも閉じたままであった。


「…ビックリした拍子に、ちょっとだけ緩んじゃったのかな?
まあ、そんな事どうでも良いや」


さと見は、再び目の前のドアに目をやると、またゆっくりと開けて中を覗く。
すると今度は、クローゼットの中からハンガーに掛けられた、青色や黒色のメイド服を取り出していた。


「ん〜…次は、この色が良いかしら?
それとも、さっきと同じこの色にするか…」


そう言いながら、どの色のメイド服に使用か悩む少女。
さと見は、部屋の中に入り、
ドアを閉じると少女に近付くと、その姿をまじまじと見つめる。


「なるほど、お着替えの途中だったか。
ん〜、どれを着ようか悩む姿、実に可愛い。
でも、そうなるとこの人が咲夜さん…よね?
ドアに名前書いてあるし、小悪魔も妖精のメイドもずぶ濡れになってるって言ってたし…」


そう、今さと見の目の前にいる少女こそ、
言うまでも無く、この紅魔館のメイド長である十六夜咲夜である。
それに気付いたさと見は、
途端に真剣な顔で彼女の体を見回した後、顎に手を当て難しい顔をする。


「ん〜…コイツ、人間よね?どう見ても。
てっきり、妖精だと思ったんだけど、意外だわ」


吸血鬼の館に人間までいるとは思っていなかったさと見は、珍しがる。

一方、咲夜は次に着るメイド服を決めていた。


「コレにしましょう。いつもと違う感じにするのも、悪くないかもね」


そう言って咲夜が決めた次のメイド服は、
赤みが強い黄色のような感じの色をしたものであった。

そして、それを着ようと決めた咲夜は、手早く着、
さと見はその姿を黙って見る。


「…コレでよしっと。ん〜…どうかなぁ?
変な目で見られはしないだろうけど…」


余り着た事のない色のメイド服を着てか、いささか不安そうな咲夜だったが、
すぐにその表情を改める。


「何て言ってる暇は無いわよね。早く台所に戻らないと」


そう言うと咲夜は、近くに置いてあった懐中時計を持つと、
足早に部屋から出て行った。


「ふっふ〜ん。やったぁ、メイドさんの生着替え現場を目撃しちゃったわ。ニヘヘヘ…」


と、咲夜が立ち去った後、やらしい顔付きでやらしく笑い、嬉しそうにするさと見。


「フフ、今日はツイてるわ。
脱ぐと凄そうな門番に、隠れ巨乳な病弱魔法使い、
そして極めつけは、更にスタイル良くなりそうなメイドの咲夜さん。
となれば、この館の主のレミリアもきっと、ナイスバディーなお姉さまに違いないわ!
うんうん、絶対そうだ。だって吸血鬼の貴族なんて高貴なお方だもの。フフフフフ…」


最後に怪しく笑うさと見。

そう、実は彼女、レミリアもグラマーな美女であると思っているのである。
なので、霊夢に彼女の事を聞かされた際に、デレ〜とした顔をしていたのだ。

だが、実際のレミリアはさと見が想像するような容姿の人物では無いのは、
もはや言うまでも無いであろう―――


「ああっといけない!こんな所で油売ってる暇ないわ。今度こそレミリアを探しに行かないと」


と、我に帰るようにさと見はレミリアを探そうと、
咲夜の部屋を後にしようとドアの前まで歩み寄った。

だが―――




ギィ―――

「え?」

「咲夜ぁ、いる〜?」


ドンッ!

突然、咲夜を呼ぶ声が聞こえたかと思うと、
いきなりドアが開き、さと見にぶつかってしまった。


「ブッ!!」


開いたドアに激突したさと見は、尻餅を付く。
一方、開けて来た誰かは部屋の中を見ながら、こう言った。


「あれ?いない…全く、何処行っちゃったのかしら。
こちとら、紅茶が欲しいのに…ん?」

「………………っ!」


ドアを開けた誰かは、ふと部屋の中に目をやると、
両手で鼻を押さえ、声にならない声で悶絶するさと見の姿に気が付く。
どうやら、顔面、鼻辺りに思い切りぶつかったらしい。


「誰だ、お前?」

「イツツ…"誰だお前?"じゃないわよ!入る時くらいノックを…はっ!」


誰かに抗議するさと見だったが、
すぐに相手が自分の姿が見えている事に気付き、驚く。


「(や、ヤバ…さっきの拍子で、第三の目が開いちゃった)」


冷や汗を垂らしながら、第三の目に視線を向けるさと見。
すると、確かに第三の目はギョッと開いている。
そして次にさと見は、誰かに目をやると、
誰かは両手を腰に当て、半目でジーっとさと見を見つめている。

それは、自分が何者なのかと疑問に持っているのと同時に、
怪しむような雰囲気であり、さと見も開いた第三の目でそれを感じ取った。


「(あ、あぁ…どうしよう…)」


うろたえるさと見。
まさか、このような形で、
紅魔館の住民の前に姿を晒す事になるとは、思ってもみなかったからだ。
無意識を再び操って逃げようにも、いきなり姿を消したら逆に騒がれる。

なら、いっその事事情を話そうか?

だが、彼女は目の前の誰かとは初対面で、
しかもこっそりと忍び込んでしまった。
そんな自分の話しを信じてくれるだろうか?

さと見は、ここに来て無意識を操ってこっそり侵入した事を後悔した。


「おい!」

「は、はいぃ!?」


そう思った矢先、誰かが声を掛けて来たもので、さと見は声を裏返して飛び上がる。


「もう一度聞く。お前、何者だ?何故咲夜の部屋にいる?」

「え?あ、あぁ…いや、その…わ、私はその…えっと…」

「?…ん?」


答えに迷い、うろたえるさと見。
だがその時、誰かは彼女の胸の第三の目に気が付く。


「その目は…」

「え?あぁ…コレ?
コレ、第三の目…私の…と言うか、覚り妖怪の力の源…」


気の抜けた感じに答えるさと見。
すると、誰かは納得したかのようにコクコクと頷きながら、こう返す。


「やっぱり。じゃ、アンタも覚り妖怪って訳か」

「そ、そうだけど…え?私も?…ハッ!」

「気が付いた?さすがは心が読める妖怪。
そうよ、私の親友にお前と同じ種族の妖怪の姉妹がいるのよ」

「覚りの姉妹…
なるほど、つまりアンタもさとりとこいしの知り合い、と言う訳か。
ま、あの2人はこの館の主人と親友らしいから、
知ってる人がいるのもとうぜ…え?」


と、納得しかけるさと見だったが、誰かの返答の内容からある事に気付く。


「どうした?」

「い、今アンタ、あの2人の親友…て、言った?」

「ああ、言ったが?」

「じゃ、じゃあ…もしかして、アンタがレミリア?」


恐る恐る聞くさと見。
するとその誰かは、「そうだけど?」と答える。


「えぇ〜!?」


嘘だ!と言わんばかりに驚くさと見。
何故なら、目の前に立っている誰かは、
ピンク色の服や帽子を身に纏った、
青みがかった銀髪の自分より小さく幼い少女の姿をしており、
さと見の想像していたレミリア像とは全く違っていたのだ。

さと見は信じたくなかったが、
良く見ると背中には小さな蝙蝠か悪魔の翼があり、目は吸血鬼特有の紅い瞳、
そして、レミリアの心の声は全く嘘を言っていなかった為、
彼女が吸血鬼貴族のレミリアである事は事実であった。


「何を驚いているの?」

「あ?あ!いやいやいや…
こ、こんな幼女…
いや、ちっちゃな女の子が館の主だったなんて、思っても無かったのよ、ハハハ…;」

「はあ?何言ってるの?」

「"私ゃ500歳以上だぞ"?あ、あぁ…
そ、そう。ああ、そうね。私ら妖怪って、人間より年取るの遅いからね」

「そんなの当たり前じゃない」

「"変な事言うわね"。ごめんなさい…」


頭を下げて謝るさと見。
これにレミリアは、変な奴を見るような目を向けるが、すぐに表情を改める。


「…まあ、良いわ。
どうやったかは知らないけど、人様の家に無断で侵入したのは行け好かない。
でも怪しい奴でも無いようね。そもそも、さとりの知り合いのようだし」

「ええ。それで、貴女は私に興味を持ってるでしょう?もっと知りたいと思ってるでしょう?」

「もちろん。私の事を知らないのも気になる」

「それじゃあ、話してあげない事も無いけど…
人様の部屋でするのもなんだし、場所移しましょうかしら?」

「無論だ。それに、久々の客人だし話しもしたい」

「"ついでに、紅茶で持て成したい。早く咲夜を捕まえたい"」


と、レミリアの返答に続きを代弁するかのごとく、
さと見は彼女の考えを読み、口に出す。


「ああ、そうそう。
紅茶欲しくなったから、彼女に淹れてもらうと呼びにここに来たんだけど、
アンタ見てない?」

「咲夜さん?ああ、その人間ならついさっき台所の方へ行ってたけど」

「そうなの。じゃあ、今からそっちに行くから、貴女は…」

「"先に客間に行ってて頂戴"。分かったわ。で、客間はこの部屋から右手奥にあると…」

「その通り。やっぱり良いわよね、その目…話しいらずだし、何より面白い」

「心の底から言ってくれて、ありがとうございま〜す。
ではでは、無効でお待ちしておりま〜す」


そう言って深々とお辞儀をすると、
さと見は先に部屋から出て行く。
そして、レミリアは見届けた後、咲夜の所へと向かっていった。




「はぁ…何か残念ね、レミリアが幼女だったなんて…」


レミリアと別れ、客間へと足を進めるさと見は、一言呟く。
どうやら未だに実際のレミリアの姿が、
自分の考えていた姿とかけ離れていた事を気にしているようである。


「まあいっか。
もう500年経ったら、ひょっとするかもしれないし…クスス」


と、さと見は意外にあっさりと自分を納得させると、
彼女は客間へと足を運び続けるのであった。



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