それから紅魔館の客間。
レミリアの言う通りに部屋にやってきたさと見は、
その部屋置かれたテーブルを挟むように置かれた椅子に腰かける。
そしてしばらくすると、
紅茶入りカップを2つ乗せた銀色のトレイを持った咲夜を連れたレミリアが入って来る。
無論、咲夜が着ているメイド服はいつもと違う、赤みが強い黄色のメイド服だ。
さと見は、つい先程見たばかりなので特に新鮮味も無いし、本人自体見るのもこれが2度目だ。
「あらあら、面と向かっては初めましてね、十六夜咲夜さん」
咲夜を見るや否や、初めましての挨拶を掛けるさと見。
だが咲夜は、
見た事も無い相手が自分の名前を知ってる事を不審に思い、警戒の目を向ける。
「ちょっとちょっとぉ、そんな怖い顔しないでよ。
ここに来るまでにアンタの話しを小耳に挟んでたからね。それに、私心を読めるし…」
「だいいち、彼女は久々の客人よ。そんな顔しちゃ失礼よ、咲夜」
「…も、申し訳ございません」
レミリアに注意され謝る咲夜。
だが、さと見は咲夜の表情と心に何処か納得がいかない様子を感じ取った。
「………」
「さ、それより早く話しをしたいから、紅茶を置いてくれないかしら?」
「か、かしこまりました…!」
レミリアの言葉に咲夜は急いで紅茶入りカップをテーブルに置き、
レミリアもさと見の向かい側に座る。
その時の咲夜は急いではいたものの、チラチラとさと見の方に毛嫌いの目を向けており、
さと見はその顔と心を見逃さなかった。
「では、ごゆっくり…」
紅茶の無くなったトレイを両手に、丁寧にお辞儀をした後、部屋を後にする咲夜。
だが、その顔は微妙にさと見の方を毛嫌いするように睨んでいるようであり、
先程から咲夜の動きをジッと見ていたさと見は、それすら見逃さなかった。
「…………」
「…どうしたの?」
「"ひょっとして、咲夜に毛嫌いされてるのが分かったの?"
ええまあ…」
「ごめんなさいね。彼女、どうも覚り妖怪に慣れない様で…」
「覚り妖怪に慣れない?ひょっとして、さとりに対してもあんな風な訳?」
「ええ。いつも言ってるのに、あんな調子なのよ…」
「ふぅーん…」
事情を知りつつも、何処か素っ気ない返事を返すさと見。
その時の声が微妙に怒っている感じだったのだが、
レミリアは全く気が付いていなかった。
「それよりさあ、貴女どうやってここまで入ってきた訳?」
「"門番や妖精メイドとかいたはずだけど…"
ああ、その事?フフン、答えは簡単。無意識を操る程度の能力を使ったのよ」
「無意識を操る?貴女も出来るの?」
「私も?あら、この幻想郷でも同じ能力使えるのがいるの?」
「ええ。私の親友の妹がね…」
「アンタの親友の妹?それってこいしの事?」
「そうよ。一度その能力を使って勝手にこの館に侵入した事があったわ」
「て事は、こいしも私みたいに軽ーく第三の目を閉じてみたのかしら?
ん〜…奇妙な偶然ねえ」
「軽く閉じた?いや、それより貴女、何故私の事を知らないのかしら?ひょっとして、新入り?」
「そうでは無いわ。
私はアンタが幻想入りする前に幻想郷から立ち去った妖怪なのよ。
で、今日戻ってきた…
なのにこの紅魔館に来たのは、
博麗の巫女からアンタがさとりの親友だって聞かされたから…」
「それでわざわざ挨拶に来た訳ね」
「そう言う訳…んっ?」
会話の合間に紅茶を口にしたさと見だが、妙な顔をした。
「どうしたの?」
「この紅茶、人間の味がする…」
「当たり前よ」
「"この紅魔館にある食べ物や飲み物は、私達の為に人間を加工したものなんだから"
なるほど…
確かにアンタらや私ら妖怪は人間食って生きてるもんね…」
「変わった事言うわね。当たり前の事じゃないの」
「確かにそうなんだけど…
私、実は外の世界に出てから、一度も人間食べた事無いのよ…」
「え?そうなの?」
「えぇ…始めはちょっと食べてたんだけどね、
あっちの世界の料理食べてみると、そっちの方が気に入っちゃって、
で、気が付いたら人間達と全く同じ食事を取るようになっちゃった訳。
だから人間を使った料理はちょっと抵抗が…」
「へえ、意外ね。でも…」
「"それだと霊力が低下したりしない?"
大丈夫。私達覚り妖怪は、直接人間を食わないでも恐怖心で充分代用できるから、
心配はいらなかったわ。
アンタ達みたいな妖怪だったら間違いなくヤバかったけど…」
「ふーん。貴女、変わってるわね」
「そう?それだけ珍しくて興味ある?」
「ええ…と言うか、そこまで言って無いのに…」
「"良く分かったわね"
いやだって、心読んでるから…」
「ああそうだったわね。
フム、無意識を操る程度の能力と心を読む程度の能力…
両方持ち合わせているとは、何から何まで珍しい」
「両方?こいしは無意識しか操れないの?」
「ええ。こいしは、心を操る程度の能力を失ってるのよ。
だから、その両方を使える貴女は珍しい」
「それは…どう言う事?」
「どうもこうも、さとりが言うにはこいしは心を閉ざしたらしいのよ。
まあ、今はある程度マシになったそうだけど…」
「ふーん…(心を閉ざした?いったい、アイツに何が…)」
こいしの現状を知らないさと見は、疑問を抱かざるを得なかった。
早急に知りたい所であったが、
こいしの事はさとりから聞いた方が速そうだと判断して追及はせず、
別の話題を振る事にした。
「まあそれはともかく、ここに来るまで色々見て来たけど、
吸血鬼の貴族の館なのに、色々いるのね。
チャイナっ娘な門番に妖精のメイドさん、魔界の小悪魔に魔法使い…
何か色々いるせいで、吸血鬼がいる館かどうか、一瞬疑ったわ」
「貴女ねえ、館の住民全員が吸血鬼だったら、それはそれで困るでしょ?
血と人間を求める連中だらけになって、統制が大変になるわよ。
私ら、ただでさえ強力な一族なんだから」
「ああ、そう言われてみると…
それでも、まだちょっと気になる事があるのよねえ…」
「なによ?」
「さっきの咲夜さんって言う人よ。あの人、人間よね?
魔法使いや妖精なら分かるけど、
何で吸血鬼を恐れる人間まで働いてるの?非常食?」
「はあ?お前何を言ってるんだ?そんな事ある訳無いだろう?」
非常食と言う言葉に反応してか、急に高圧的になるレミリア。
その際の目付きは幼い姿からは想像もつかないような鋭い物で、
彼女自信の心も、否定の声をさと見の第三の目に強く向ける。
レミリアの変化にさと見は目を丸くし、
一瞬冷や汗を垂らすが、特に動じない面持ちで口を開く。
「失言だったようね。これは失礼…」
「フンッ!お前心を読めるんなら、少しは考えてから発言しろ。でないと…」
「"喉掻き切るぞ!"
はい、分かりました…にしても、そこまで高圧的になるとは…
どうやらあの人間を余程信頼しているようね」
「ええ…彼女は…咲夜は私と同じなのよ…」
「貴女と同じ?」
さと見に言われ、レミリアは無言でうなずくと高圧的だった表情を改め、
紅茶を一口すすった後、語り始める。
「あれは、5年くらい前の事だったかしら?
月が綺麗な夜の事だったわ。
私が夜中散歩をしていた時、黒装束を着た怪しい人間の男の集団に追われる人間の女を見付けた。
私は気になって近付いたわ。
すると男達は私を化け物だと言って襲い掛かってきた。
本来幻想郷で生きた人間を襲っちゃいけないって契約を結んでた私でも、
さすがに本気で皆殺しにしてやったわ。
何かロクでも無さそうだったし、
そもそも幻想入りした直後だったから、死んでも誰も気にしないだろうしね。
でも、今度はその男達が追っていた女が、私を攻撃して来たのよ」
「なんで?…ああ、そうか。
目の前で男達ぶっ殺したアンタにビビってか」
「そうよ、彼女は私に恐怖を感じ、自分の身を守る為に攻撃した。
だからと言って、私もみすみすやられる訳には行かないと思って応戦したわ。
どうせさっきの男達みたいにすぐ死ぬに決まっている。
始めはそう思った。でも、彼女は違った…
彼女は普通の人間とは違う力とタフさを持っていた。
互角とまでは行かないけど、
その時までに出会った人間の中では明らかに強かったわ。
私は驚きを隠せなかったわ。私とまともにやり合える人間がいたなんて…
それだけならまだしも、私に傷まで付けて来た。
正直、人間に傷を付けられたのもそれが初めてだったわ。
私はその人間の女がとても珍しくて、殺すのが惜しくなった。
それで私の仲間にならないかと誘ったのよ」
「へえ。それで、最初は…応じなかったのね?」
「ええ。でも私は分かっていたわ。
彼女は見知らぬ土地に来てしまったばかりか、外の世界へ帰れなくなった。
そしてこの世界で頼れそうなのは私くらいしかいない。
だから、すぐにここを尋ねて来るだろうと思った。
そしたら案の定、次の日に私の下を訪ねて来たわ。
しかもそれだけでは無く、私に忠誠を誓うとか言って自分の手を傷付けて、その血を私に捧げたのよ。
昔から私達吸血鬼を恐れ嫌っているはずの人間が、ここまでするとは思ってもいなかった。
私はますますその人間が珍しくなって、私の使用人として迎え入れたわ。
人間を使用人にするなんて、前例をみなかったから始めはみんな心配したわ。
でもいざ使ってみると、メキメキと使用人としての腕を上げて、しまいには妖精メイドを上回る程になった。
そのうえそれなりに強かったから、私はその女をこの紅魔館のメイド長に任命し、
新しい名前をあげた」
「それが、十六夜咲夜さん…
あれ?でもそれなら、彼女には本名あるんじゃ…」
「彼女は、自分の名が何なのか覚えていなかったようなのよ。
だから、パチュリーと一緒に考えた末、その名前に決めたのよ」
「なるほど…でも、何で咲夜さんは追われていたのかしら?」
「それは、彼女が恐れ嫌われていたからよ」
「え?」
レミリアの一言が意外だったのか、さと見は驚く。
それを見てかレミリアはこう続けた。
「彼女は、こっちに来るまでに覚えている事を全て話してくれたわ。
外の世界の人間達は、
人ならざる力を持つ咲夜を誰一人として人間と見ず、
怪物呼ばわりして蔑んでいた。
私が皆殺しにした男達は、彼女を殺して人々に安心をもたらそうとかほざいてた連中だったそうよ」
「何それ、酷っ…!咲夜さん、相当辛かったでしょうね」
「無論よ。だから彼女は、嬉しかったみたい。
自分をただ珍しいだけの人間として見てくれた事が…
そしてかく言う私も、彼女に共感するものを感じたわ。
私の一族も昔からずっとその強さから、怪物として恐れ嫌われて来たからね」
「なるほど、確かに似てるわね、アンタと咲夜さんの境遇。
だから…そのせいで、徐々に彼女を愛してしまったとか?」
「はあ?!ちょ、ちょっと待て!唐突に何を言ってんだ!!
確かに彼女の事は嫌いじゃないが、そこまでの感情なんて持って無い!!!」
脈絡も無くさと見がそのような事を言うもので、
レミリアは驚きと恥ずかしさで顔を赤くしながら断固否定するも、
さと見はクスクス笑う。
「あぁ、そんな照れ無くて良いんですよ〜?私は心読めるんですから〜」
「くっ…!つ、次言ったら殺すぞ!」
「はいはいごめんなさいねっと…」
怖い顔で脅すレミリア。
さと見はすぐさま謝るが、悪びれる様子も無く、面白がっている様子だ。
「はいはい、面白がってすみませんねっと…」
「お前、本気で謝って無いだろう?」
「えー?そんな事無いけど?」
「……」
「"付き合ってらんない"」
「お前!これ以上何も言うな!」
「はぁ…分かったわよ、余計な事言わなきゃ良いんでしょ?
余計な事言わなきゃ。でも…」
「なんだ?!」
「今の線から行くと、アンタがさとりと親友関係にあるのって、嫌われ者繋がりってのもあるの?」
「ん?あぁ…確かに言われてみると、それもかもしれないわね。
特に何も感じなかったけど、
彼女に対しても同類意思か何か感じてたのかもしれないわね」
「ふーん、やっぱり。…………」
とその時、急にさと見は今までの表情が一変。
何処か腑に落ちない顔になる。
「どうしたの?」
「いや、何でも無い…」
そうは返すが、表情1つ変えないさと見。
急にどうしたのだろうか?
レミリアは疑問に思いながら紅茶を飲み干すが、
さと見はすするばかりで、余り多くは飲まない。
人間の食事に完全に慣れてしまったのもあるのかもしれないが、
この時は別の何かがあるような雰囲気である。
そしてそうしている内に、
彼女らが飲み終わったかをチェックに来たのか、トレイを持った咲夜がまた部屋に入って来た。
「お嬢様、紅茶飲み終わりましたか?」
「ああ咲夜、私は終わったけど、さと見の方がまだなのよ。
どうも人間食うのに抵抗あるみたいで、
余りお口に召さないそうよ。さっきからちょっとしか飲まないのよ」
「そうですか。では、普通の紅茶とお取り変え…」
「…いらない」
咲夜がさと見の紅茶を人間を加工したものじゃないものと取り変えようとかと、
進言しようとしたその時だった。
突然彼女の発言に割った入るように、さと見がいらないと呟いたのだ。
「え?」
「ちょ、ちょっとさと見…?」
さと見の発言に驚きを隠せない2人。
だが次の瞬間、さと見はバンッ!とテーブルを叩きながら椅子から立ち上がり、
咲夜の方を振り向く。
咲夜は驚くも、そんな彼女の事などどうでも良いのか、
さと見はズカズカと咲夜の前まで歩み寄り、そして―――
ガッ!
いきなり彼女の顔を殴り付けたのだ。
「咲夜!!」
殴られた咲夜を心配し、その名を叫ぶレミリア。
殴られた咲夜はと言うと、
うっ!と小さく唸りながらバランスを崩して床に倒れ、
持っていたトレイが音を立てて床に落ちる。
「うぅ…!」
殴られ痛む顔を押さえる咲夜。
そんな彼女に間髪入れず、
さと見は今度は咲夜の胸倉を掴み、無理矢理起こす。
その表情は先程と打って変わって怒りに満ちている様子であった。
「うぅ…!あ、貴女…!」
「"いきなり何するの?"
ハン!知れた事…
貴様が淹れる紅茶なんていらないって言いたいのさ!」
「な…!?」
「ちょ、ちょっとさと見!止めなさい!」
さと見の豹変ぶりに動揺しながらも、レミリアは2人の間に割って入り、
胸倉を掴むさと見を咲夜から引き離す。
「お前、私の使用人にいきなり手を上げるとは、
どう言う風の吹き回しだ!?
しかも、咲夜が淹れる紅茶などいらない?
いったいコイツに何の文句があってそんな事を言う?!
そんなに人間を使った紅茶が気に入らなかったか?!」
半ば怒りを向けるレミリア。
一方、さと見も負けじと言い返す。
「はあ?誰が紅茶に文句があるって言った?
私が文句があるのは、私に対するコイツの態度よ!」
「態度…?」
「そうよ。コイツ、さっきからずっと私に毛嫌いを向けて…!
客人に対して失礼だとか思わないの?!」
「それはさっき彼女に直接言ったじゃないか。何か悪い事でもあるのか?」
「あるね。コイツ口ばっかでずっと私に毛嫌いの目を向けて、
心の中で早く帰らないかと呟いてたわ!」
「それもいつもの事だ。後でキツく…」
「"キツく言っておく"だと?!
ふーんそうですか…信用ならないね!!」
「なんだと?私は本気だぞ?その目で分かっているだろう?」
「ええ、適当にはぐらかして無いのは分かります。
でもねさとりに対してもいつもああだって言ってたわよね?ねぇ?」
「そうだが…?」
「なのにコイツ、私らへの態度を一切変えられて無いようじゃないの。
それがちゃんと出来て無いとは、やっぱり見た目通りガキねアンタ。
どうせ半分甘やかしてんでしょ?」
「なにぃ!?」
さと見の一言にレミリアはカチンと来た。
そしてただでさえ赤い目を更に真っ赤にし、さと見に向ける。
「貴様ぁ!!もう許さんぞ!!
いくらさとりの知り合いでも、容赦しない!!
これ以上勝手な事抜かすと、本気で殺すぞ!!!」
いつになく殺気立った様子で怒りをあらわにするレミリア。
だが、さと見は動じる様子は無く、表情1つ変えずにこう言った。
「勝手…ねぇ…
はてさて、どちらが勝手なんだか…」
「なんだと?!まだ文句があるのか?!!」
「ああ、ありますとも。
あのさあ、私ら覚り妖怪が人妖や怨霊達に恐れられ、
どんだけ蔑まされてきたのか知ってるのか?」
「それはさとりから聞いた。アイツらの両親は、そのせいで殺されたそうだ」
「そうだったのか…
アイツら、私がいない内にそんな目に遭ってたか。
でも、私もそのせいで酷い目に遭ったんだ。
見てよ、この目の傷!千切られたコード!そしてスカートの切れ込み!
これは全部、覚り妖怪を嫌い蔑んだ妖怪に付けられたものだ!
まあ、私にはもっと酷いものを付けられてるんだけど、今は見せられない。
とにかく、もう分かるよな?私らが散々嫌われて何を思っていたのかを?
どれだけ嫌われるのが嫌な事なのかを…
特に、恐れられ嫌われてきた貴様なら、分かるはずだ!」
さと見はビシッと指差しながら、強い口調でレミリアに言い放つ。
だが、レミリアもフフンと言った表情で反論する。
「残念でした。
私基本的に相手が嫌おうが嫌わまいが、余り気にしないタチなんだ。
ま、そのせいで話し相手がいなくて暇なんだがな」
「ふーん、心の底からそう思ってるようね。でも、コイツは違うでしょ?
貴様さっき言ってたよな?
コイツは…咲夜は外の世界で怪物呼ばわりされ、嫌われていたって!
その境遇に共感したって!!」
「それがどうした?」
「どうしただぁ?!どうしたもこうしたもない!!
何で同じように酷く蔑まされて来た奴から、毛嫌いの目をむけらんなきゃならないのさ!!
こんなのおかしい!!絶対におかしいわ!!!」
「そ、それは…!」
「……」
怒鳴り散らすように言い放つさと見の言葉に、
レミリアは言葉に詰まる。
そして、無言で聞いていた咲夜も、押し黙る。
さと見は彼女らの反応と心の変化を見逃さない。
「それは…何かしら?
そっから先の言葉が見付からなくて、悩んでる様ですが?」
「くっ…!」
反論できない悔しさに、レミリアはグッと拳を握る。
その様子にさと見は、勝ち誇ったようにこう続けた。
「全く…ここで反論できないとは、やっぱりお子様ですね。
さとりも良くこんなのを手元に置いてる貴様と親友でいられたものね。
ま、アイツは大人しい奴だからある意味当然かな?
はあ、さとりの親友の家だと思って楽しみにして来てみれば、
こんな酷いメイド長がいたなんて…
私は嫌われるのが大嫌いだ。
その上、自分と同じ境遇の奴に自分がかつてされていた事をする奴は、もっと大嫌いだ。
つう訳でじゃあね。もう当分は来たくない」
と、さと見はレミリアと咲夜に背を向け、その場から立ち去ろうとした。
だが―――
「…ん?」
さと見は待てと言う心の声が聞こえ、そして背後に気配を感じ振り返る。
するとそこには、右手で殴られた顔を押さえ、
左手に持ったナイフをさと見に向けて立つ、咲夜の姿があった。
「あら?どう言うつもり?」
「言わないでも分かるはず…」
「…なるほど。
自分を殴り付け、レミリアをボロクソ言った私をただで帰す訳にはいかない。
このままでは気が収まらない…
そう言う事」
「そうよ」
「ふぅーん…自分らの都合の悪い事散々言われて腹が立ったから、
今度は武力行使ですか。
自分にも非がある癖に、なんとも勝手な事…」
「………」
「…良いわ。受けて立とうじゃないの。
十六夜咲夜、貴様に決闘を申し込むわ!
もし貴様が私に勝てれば、さっきまでの事は全部無かった事にしてやる」
「良い条件ね。
なら負けてられないわ」
「そうと決まれば、外に行かない?
いっぱい動いて戦うんなら、外の方が良いわ」
「それなら、この館の裏に行きましょう。
あそこならどんなに暴れても良いわよ」
「よおし、じゃあ先に行っててやるから、後で来い!良いな?」
「先に行かせるから、行って来なさい」
「フンッ!」
余裕を見せる咲夜にさと見はそっぽを向きながら部屋を後にした。
そんな彼女の姿を見送った後、
レミリアは心配そうに咲夜に話し掛ける。
「ちょ、ちょっと咲夜…貴女1人で大丈夫なの?
あんな事言って…」
「はい。一応は私が撒いた種です。
彼女との決着は、私が着けるのが道理…
ですので、お穣様は見ていてください。私の戦いを…」
「分かったわ。そうまで言うなら止めはしないわ。
だから私の分まで、頑張って頂戴ね」
「もちろんです、お穣様」
「よし!そうと決まれば、パチェ達も呼びましょう。
アイツが無様にはいつくばる姿を大勢の前で見せ付けてやる!」
「お、お穣様ったら…」
そう意気込むレミリアに苦笑する咲夜だったが、
そのおかげで緊張感がいくらかほぐれた様な気がするのであった。
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