「やれやれ、本当に良く避けれるわね。
ま、さっきのは私が喋ったのもあるけど…」
「!?」
さと見が落下した事により、巻き起こった土煙。
その中から立ち尽くすさと見が出て来ると思っていた咲夜は、
地上を見下ろしていたのだが、
いつの間にか目の前にさと見が現れ、話し掛けてきた為、驚きの表情を見せる。
「なあに驚いてるのよ?私が無意識を操ったり、
ショートワープしたり出来るのはもう知ってるでしょ?」
「っ!」
咲夜から奪ったナイフを持った右手をグリングリン回しながら、
さと見は語る。
そんな彼女に、咲夜は殴りかかろうとしたが、さと見はひゅっとかわす。
「おっと…ふーん、律義ねえアンタ。
私に一撃入れて返してもらおうと考えてる。
時を止めれば簡単に奪い返せるのに…
それだけ私に痛い目見させないと気が済まない訳?」
「!!このぉ…!」
自分の心を読んで来たさと見に咲夜は蹴りを入れようとしたが、
さと見は、またケープの様なものを大きくすると、
バサっと右手を使って右半分を覆うようにひるがえし、咲夜の蹴りを防御した。
「なっ!…うぐっ!!」
驚く咲夜だったが、さと見は間髪入れずに足を払い飛ばすと、
彼女の腹を左手で殴る。
勢い良く殴ったのか咲夜は痛みで腹を押さえたまま後ろに飛ばされるが、
さと見はショートワープで先回り。
右足を左手で掴み、掴んだまま急降下して、咲夜を地上に叩き落とした。
「うわああぁ――!!」
叩きつけられ、悲鳴を上げる咲夜。
叩き付けた後、さと見は宙返りで飛び、距離を取る。
その直後、咲夜は少しよろめきながら立ち上がる。
ダメージは蓄積されながらも、まだ行けるような雰囲気だが、
立ち上がった彼女の赤みが強い黄色のメイド服は、
砂で汚れ、少しボロボロになっていた。
その姿を見て、さと見は感心する。
「ふーん、あれで立ち上がれるとはねえ…
普通の人間なら、結構堪えるはずよ?
レミリアの言う通り、タフねアンタ」
「まあね…」
「でも私なんかに褒められたって嬉しくないんでしょ?
何処まで毛嫌いすりゃ気が済むのやら…
ここまでくりゃ呆れてものが言えない。
…まあ、ンな事どうだって良いや。来な!」
そう言って、右手人差し指をクイクイと動かして咲夜を挑発するさと見。
これに咲夜は、即座に殴りかかろうとするも、
さと見は軽やかにかわした。
「おいおい、さっきと同じかよ。
同じ動きじゃ、全然つまんないわ」
「この…!」
と、次にさと見を蹴ろうとする咲夜だったが、さと見も蹴りで応戦。
さと見の蹴りが僅かに上回ってか、
咲夜の蹴りは弾かれる。
「くっ!」
「悪く思わないでね。さっきみたいに尻蹴られちゃ、たまんないからね!」
そう言いながら咲夜に回し蹴りをあびせようとするさと見。
だが、咲夜は屈んで回避。
これにさと見は続けてもう片方の足で回し蹴りを浴びせようとするが、
今度は後ろ飛びをされてかわされる。
それでもさと見は表情を崩す様子は無い。
だが、咲夜は後ろ飛びをして着地した瞬間にしゃがむと、
スカートの中の左脚太腿のホルスターに手を伸ばし、
そこにあるナイフをさと見目掛けて投げる。
そう、実はホルスターに1本だけナイフが残っていたのだ。
「おっと!」
カキン!
だが、さと見はそのナイフを、咲夜から奪ったナイフで払い落した。
「チッ…!」
「フフン、残念でした。
ホルスターにナイフが残ってるのは、
さっきからチラチラ見えてたから分かってたし、
そもそもそこにホルスター付けてるの知ってたしね!」
バチンッ!!
そう言いながら、さと見は突然体を回転させると、
その勢いで尻尾の様な伸び方をしたコードを咲夜に叩き付けた。
「うぐッ!?」
意外に強烈な叩き付けに怯む咲夜は、同時にこの攻撃に驚く。
「どう?またまたビックリしたでしょ?このコードも武器なのよねぇ〜」
コード攻撃を仕掛けた直後で咲夜に背を向けているさと見は、
得意げな表情を浮かべながら、尻尾の様な伸び方をしたコードを、
尻尾のようにくねらせる。
「フンッ!」
その直後、さと見はまた体を回転させて叩きつけようとしたが、
今度は見切ったと言わんばかりに、咲夜は回避する。
だが―――!
ガッ!
「ウグッ…!」
次の瞬間、いつの間にか目の前にまで移動してきたさと見に、
顔面を殴られてしまった。
「フンッ!避けて安心してんじゃないわよ!バーカw」
あからさまにバカにするさと見。
そんな彼女を咲夜はキッと睨むと、
何故か片手で鼻元を押さえつつ、
もう片方の手で薙ぎ払うような動きで殴り付けようとしたが、さと見は当たり前のように回避。
そして、次に全く同じ動きで咲夜を殴り付けた。
「グッ…!」
動きを真似され、嫌な気分になる咲夜は持ち直すと、
今度はまた蹴ろうとする。
だが、さと見は飛んで回避すると、
またしても咲夜と全く同じ動きで彼女の顔を蹴り付ける。
「うあっ…!!」
蹴られた咲夜は、そのまま吹っ飛ばされ、倒れてしまう。
「うぅ…」
苦しそうな声を上げながらフラフラと立ち上がる咲夜。
この時、片手で押さえていた鼻が露わになる。
露わになった彼女の鼻からは、赤い血が垂れていた。
「あ、鼻血出てる。やだごめん、強く殴り過ぎちゃったかしら?」
「ハア…ハア…ホントは…」
「"もう気付いてた癖に…"」
「…!」
またしても自分が言おうとした事を言われた咲夜は、
フラフラと殴り掛かろうとしたが、さと見に避けられる。
結果両者の距離が空き、
咲夜は左、さと見は右に回る様に横に歩きながら、しばし睨み合う。
すると、さと見は急に両手を後ろに組んでよそ見をする。
それを見て思わず油断してしまう咲夜。
その一瞬の油断を逃さんと言わんばかりに、
さと見は両手を組んだまま、蹴り掛かる。
これを咲夜はとっさに横に向かってかわしたが、
読んでいたと言わんばかりに、
さと見は続けてもう片方の足を使って咲夜の腹を蹴る。
「ウグッ…!」
「うりやぁっ!!」
一瞬、腹を押さえて後退する咲夜。
そしてすぐに顔を上げた瞬間、さと見は回し蹴りを顔の辺りに叩きこむ。
今度は加減したのか、
咲夜は「うっ!」と軽く悲鳴を上げながら、ふら付く。
「フッフッフッフッフッ…」
そんな咲夜を見るさと見は、
薄ら笑いながら尻尾の様な伸び方をしたコードの先のハートを、
前に向けると、そこから黄色いハート弾を数発放った。
「くっ…!!」
飛んで来るハート弾を、咲夜は顔の前で腕を組んで耐える。
「あ、あの覚り妖怪、強い…!」
「あわわわ!やっぱりヤバいわよあれ!」
「…………………」
さと見に押されて出した咲夜の姿に、妖精メイド達は焦る。
一方のレミリア達は相変わらず黙って見ているが、
ただならぬ顔をしていた。
「ハア…ハア…ハア…!」
当の咲夜は、何とかハート弾を耐えしのいだ。
だが、蓄積されたダメージか、戦いが長引いてか、
息を切らしていたが、それでも強気の表情を崩さない。
一方、さと見はそのような様子は無い。
「あらあら?そろそろバテて来たんじゃないの?」
「う、うるさい…!」
「はいはいそんな強がらない。
しっかしまあ、アンタ結構粘るわねえ。
さすがは吸血鬼に認められた人間と言った所かしら?
…で、私に褒められても嬉しくないと?」
「…!」
ガキッ!
と、またしてもさと見に心を読まれた咲夜だったが、
その直後時を止めて弾かれたナイフの内の1本を回収。
そのままさと見の目の前に近付き、時止めを解いてナイフを突きたてようとしたが、
またしてもさと見は奪ったナイフを使って防ぐ。
「だから無駄だって。何度やっても同じ事よ。貴様の心は全部読んでるんだから…」
そう言って半ば呆れ顔なさと見。
だが―――!
「ん?…うわぁ!!!」
次の瞬間、想定外の事が起こった。
咲夜はナイフを持っていない片手から、
ありえないスピードでパンチを繰り出し、
傷が入ったさと見の左目を殴り付けたのだ。
「うあ!ぐああっ!!」
障害ある傷付いた左目に思わぬ一撃を受けたさと見は、
傷の後遺症による激痛に、左目を押さえ苦しむ。
その際、彼女は咲夜から奪ったナイフをポロリと落としてしまう。
「やっ!」
「…!うっ!あっ!?」
咲夜はすかさず落ちたナイフを拾うと、
即座にさと見に向けて振い、
彼女の左頬と右のわき腹辺りに傷を付ける。
すると、その傷口からどす黒い血が流れ出た。
「うぅ…くっ…!」
わき腹と頬の傷を押さえ、よろめくさと見。
咲夜に殴られた左目も、まだ痛み、つぶったままだ。
痛みのオンパレードに苛まれる中、さと見は口を開く。
「くぅ…い、今のはさすがに、ゆ、油断した…
アンタが、左目を狙おうとしたのは分かったけど、
あそこまで早いパンチは、対応しきれなかったわ…
今のも、時を操る程度の能力によるものでしょ…?」
「そうよ。時を操る程度の能力…
これは、周りの時間だけでなく、私自身の時間も操れる…
自身の時を早め、動きを早める事だって、可能なのよ…」
「…なるほどね…こりゃ、レミリアも珍しがるわけね…
…で、今更こんな事聞くのも変だけど…
どうして人間なのにそんな力が使えるの…?
スタンド使い?それとも、白い宇宙生物と契約した魔法少女?
…いや、ナイフを使って来るから、前者かしら…?」
「?何を言っているのかしら?
私は何故このような力を持っているのか知らないわよ…
気が付いたら、使えるようになっていたのだから…」
「あぁ…やっぱ外の世界と隔離されたこの世界の人に、
このネタは通じないか…
まあ、良いわ…
私に一撃加え、ましてや傷まで付け、
奪い取ったナイフを自力で奪い返した事は、褒めてやるわ。
でも、相変わらず毛嫌いする心と、わき腹…
と言うか、体の方まで傷を付けたのは気に入らないけど」
そう言って、わき腹の傷を押さえるさと見。
彼女の発言と行動に、咲夜は首を傾げる。
「…え?
"毛嫌いする心はともかく、なんで体に傷を付けた事まで?"
って?さあね!」
と、次の瞬間。
さと見はショートワープで咲夜の目の前まで接近、
浴びせ蹴りを仕掛けようとしたが、
咲夜は時を止めて回避したついでに、後頭部を蹴った。
「イッタァ…!
やっぱりその能力、使わせる訳には行かないわね!」
ヒュヒュッ!
そう言うとさと見は、
右腕に巻き付いていたコードを伸ばし、咲夜に巻き付ける。
「うっ!?」
「うらうらうらぁー!」
さと見は、コードが伸び、
露わになった左腕を何故か右手で隠すように押さえながら、
コードを巻き付けた咲夜を振り回す。
そして、振り回した末、投げ飛ばした。
「うぐっ!」
地面に叩きつけられる咲夜。
その直後、さと見は宙に浮かび、両腕を目の前でクロスさせる。
「"「テリヴル・スーヴニール」"!」
ビシューン!!
そして勢い良く両手を振ると、
さと見の左に赤い光球、右に青い光球が出現し、
その2つが咲夜目掛けて赤と青のビームを放つ。
「!」
ズドーン!
それを見た咲夜は、時を止めて回避。
狙いを外したビームは、地面に命中し、爆発を起こす。
「!レミィ、今のって…」
「間違いないわ。色々違うけど、さとりのスペルと同じものだわ。
アイツ、能力が同じどころか、
さとりと同じスペルまで使えるのね」
さとりと同じスペルの登場に、驚くレミリアとパチュリー。
一方、さと見は次の攻撃に移る。
「まだまだ…"「本能・イドの解放」"!!」
ピシューンピシューン!
さと見は第三の目を閉じると、
今度は前方に向けてハート弾の弾幕を放った。
「いっ…!」
次の攻撃に、時を止めての回避して間もない咲夜は、
珍しく驚き、慌てた様子で避けた。
「今度はこいしの…!」
「でも、弾幕の型が全然違うわね」
次にこいしのスペルの登場に、また驚くレミリアとパチュリー。
それから、両者の戦いは続き、
時にさと見が咲夜を攻撃し、逆に咲夜が攻撃、
更に互いの能力を駆使して攻撃を避けたり、などがしばし続いた。
「ハア…ハア…」
「ゼエ…ゼエ…」
そして、ますます長く続いた結果、
先程から疲れが見え始めた咲夜はともかく、
いよいよさと見にも疲れの色が見え始め、息を切らす。
「ゼエ…ハア…
き、貴様…さっきからバテてるのに、しぶと過ぎ!」
「ハア…ハア…わ、悪かったわね…私にも、意地があるのよ…!」
「なるほど…意地…ねえ…
フフ…素晴らしいじゃないの…ちょっと気に入ったわよ。
さすがにレミリアが強いと言ってただけは、あるじゃない…」
「そう言う、お前こそ…強い…」
「"中々、歯ごたえがある相手だ…"
ヘヘ、少しは見直してくれた、みたいね…」
「き、貴様…!」
と、疲れながらも怖い顔をし、ナイフを構える咲夜。
そんな彼女に、さと見は「ハァ…」と溜め息を吐く。
「でも、能力は見直してくれない…と…
アンタねえ…
自分が送った激励の言葉を、
言わないでも理解してくれてるって気はしない訳…?」
「…………」
「ハァ…
いつまでそんな態度を取るつもりなのかしら?
まあ良いや…」
そう言いながら、さと見は一旦帽子を取ると、
頭のヘアバンドを手に取った後、帽子を戻す。
それから彼女は、そのヘアバンドを逆手持ちにして構える。
「そろそろ、この辺でケリ着けましょう」
「そ、それで決着をつける気…?」
「"しまらないわね…"
こら!決着を着ける間際に、拍子抜けしないの!
だいたい、
コイツが普通のヘアバンドじゃないってもう知ってるでしょうが!!」
「わ、分かっているわよ…!」
「半分分かってないでしょ?」
「余計なことを口出しするな…!」
「じゃあ、気を引き締めろよ!」
「………………」
さと見に言われ、渋々気を引き締める咲夜。
そんなこんなで、
両者共に互いの手持ち武器を片手に睨み合う。
「い、いよいよ決着…よね?」
「どう見ても決着よ。やっと着くのね…」
「どっちが勝つのかしら?」
「さあ?途中から咲夜さん劣勢かと思ったら、
良く分かんなくなっちゃったし…
ま、コイツは覚り妖怪が勝つって思ってるようだけど」
特徴の無い方の妖精メイドは、呆れ顔で背の高い方を見る。
しかし、背の高い方の表情は、相変わらず真剣だ。
「いよいよね…レミィ、どっちが勝つと思う?」
「さあ?
この勝負、どちらかが先に攻撃を当てた方が勝ちだからね。
まあ、咲夜には勝って欲しいのだけれど…」
「そう…私は、どっちが勝つか分からないわ…ゲホッ!」
観戦している者達は、固唾を呑んで両者の睨み合いを見守る。
一方、咲夜とさと見の静かな睨み合いは続き、
辺りに風が吹きすさぶ音が響き渡る。
そして―――
ヒュッ!
ついに両者共に動き、互いにすれ違う。
すれ違った後の両者は手持ち武器を振るった後の格好だ。
そして、両者共に動かず、またしても静けさが舞い戻る。
無論、どちらかが先に倒れれば、この静寂は崩れる。
そして、その静寂を破ったのは―――
「うっ…!」
咲夜であった。
先に倒れたのは、彼女だったのだ―――
「ええ!?」
「う、嘘…咲夜さんが負けた?」
「やっぱりね〜。こうなると思ったわ〜」
咲夜の敗北に、妖精メイド達は驚きを隠せない。
無論、背が高い方を除けば―――
「咲夜…!」
「あ、レミィ!」
「お嬢様!!」
倒れた咲夜に駆け寄るレミリア。
無論、日が当たる場所に行ってしまう為、
妖精メイドの内の1人が急いで折り畳み式の日傘を差してレミリアの下に行き、
パチュリーも魔法で体を浮かばせながら追いかける。
「咲夜!大丈夫、咲夜!?」
咲夜の体を抱き起こし、取り乱すように呼びかけるレミリア。
すると、咲夜は目を開ける。
「お嬢様…」
「咲夜!」
「大丈夫ですよ…でも、ちょっと痛い…疲れた…」 「そう…良く頑張ったわね。ゆっくり休みなさい」
「えぇ…」
「全く、大げさねえ…」
と、咲夜に優しく声を掛けるレミリアの前に、
決闘の勝者さと見が呆れた様子で、
ヘアバンドを付け直した後、帽子を被りながらやってくる。
「大げさだと?貴様…!」
「"咲夜をここまでしておいて、何を抜け抜けと!"
しょうがないじゃない。決闘なんだから…」
「貴様!!」
「…なに?自分の使用人が負けたのがそんなに悔しい?
まあ、その気持ちは分かります。
でもね、決闘って言うのは誰かが勝てば誰かが負けるのよ?
そんな当たり前の事にいちいち怒ってもしょうがないじゃない」
「だが…!」
「"あそこまで散々した挙句、ここまでされて黙れと言うほうが無理だ。"
あ、そう。確かに最初に散々言ったのは私…
でも、私は戦意を見せた覚えは無いわ。
最初に戦意を見せたのは、咲夜さんじゃないの。
私はそれに応えてやっただけ…
それに、咲夜さんが私を毛嫌いしなけりゃ、私はあそこまで言わなかったわよ。
元を辿れば、結局こうなったのって咲夜さんのせいじゃない。
私はレミリア、アンタの所に来ただけの新しい覚り妖怪でしかなかったのに…
自業自得よ」
「…!」
さと見の言葉に、反応する咲夜。
だが、この時点では誰も気付いておらず、
レミリアは怒りの表情で、さと見に食って掛かる。
「なんだと!ふざけるな!!」
「ふざけて何ていない。さっき私が言ったの忘れた?
"何で同じように酷く蔑まされて来た奴から、毛嫌いの目をむけらんなきゃならないのさ!!"
て…
怪物呼ばわりされて嫌われた奴同士が嫌われるってどうよ?
能力のせいで嫌われる奴の気持ちは、アンタら的には理解できる方でしょう?」
「そ、それもそうだが…!」
「だが、なに?
またさっきみたいに言いたい事が無くて、困ってるようですけど?」
「くっ…!貴様ぁ…!」
目を真っ赤にし、徐々に殺意がこみ上げてくるレミリア。
「ま、待ってください…!」
だが、そんな彼女を、咲夜は制止する。
「咲夜…!?」
「お嬢様…彼女の言うとおり…
です。さっきも、言ったじゃないですか…
"一応は私が撒いた種"と…」
「咲夜…でも、これで良いの?」
「はい…悔しくない、と言えば嘘になりますが…
勝負は彼女の勝ちで…私の負け…
それがこの決闘の結果です…」
「咲夜…」
「そ、それに…少しだけでも、一矢報いる事が出来ただけでも、良かったです…」
「え?」
咲夜の一言に、レミリアは疑問符を浮かべる。
そんな彼女に代わりに答えるかのよう、さと見は口を開く。
「あら…?アンタ見てなかったの…?そいつが言ってるのは、コレの事よ…」
そう言ってさと見は、
多少流血が収まった、自分の右わき腹と左頬の傷をレミリアに見せた。
「それ…」
「確かに、今回は私が勝ったし、咲夜さんが悪いと思っている…
でも、そいつの腕は認めるに値するものがあるわ。
あの状況で、とっさに左目殴る発想が出て来るんだもの…
ここまでしておいてこんな事言うのは、虫が良過ぎるかもしれないけど、
コイツを使用人にしたアンタの目は、節穴じゃないわね。
コイツ、強いわ。さすがに、博麗の巫女には及ばないけど。うぅ…」
そこまで言うと、さと見は急にわき腹の傷を押さえ、よろめいた。
「痛い…結構きてるわ、コレ…」
「なら、手当てした方が良いんじゃないかしら?ゲホゲホッ!」
そこに、喘息で咳き込みながらパチュリーがやって来る。
「パチュリー」
「あら?アンタは図書館のかk…いやいや、魔法使い」
「(かk?)そこまで知っているとは、
さすが無意識を操る程度の能力も持ち合わせた覚り妖怪ね…
ゲホッ!」
「それより…ここで手当てした方が良いとか、
なに虫が良過ぎる事言ってるのかしら?
この程度なら、まだ大丈夫だし、何より私を毛嫌いするメイド長がいんのよ?
私が勝った以上、これ以上ここの世話になる気も無いし、当分来る気も無い」
「本当にそれでいいの?」
「良いって言ってるでしょうが」
「そう…ケホッ!なら、止めないけど、1つ聞きたい事が…」
「この目の傷と、切れたコードの事?」
パチュリーの質問内容を心から読んださと見は、
パチュリーが聞く前に質問内容を口にする。
これにパチュリー本人は、特に動じず黙って頷く。
それを見たさと見は、急に物静かで何処か悲しげに語り始める。
「コレはね、私を嫌い蔑んだ妖怪に付けられたものよ」
「妖怪に?」
「"妖怪退治をしに来た人間とかじゃなくて?"
ええ、人間じゃなくて、妖怪に付けられたもの…
しかも、ただの傷跡じゃないわ…
私が大切な人を失った証でもある…」
「と言うと?」
「…残念だけど、今はそこまで話したくないわ。
話すと、知られたくない事も知られてしまう…」
「かく言う貴女は…ゲホゲホッ!知られたくない事を見抜いてしまう種族じゃないの…ゴホッ!」
「だからなに?隠しごとしようがしまいが、私の勝手でしょう?
…とにかく、もう私は出て行くわ」
と、急に立ち去る事を宣言するさと見。
彼女は咲夜の方を見ると、こう言った。
「とりあえず、今回何故こうなったのか…
私が…いや、私達がどれだけ辛い思いをして来たのか…
この敗北を元に良く考える事ね」
フッ!
そう言い残すと、さと見は第三の目を閉じ、その場から消えてしまった。
「あ!アイツ…!」
「急に話しを切ったわね…ゲホッ!
かと言って、もう追い掛けて問いただすのは、無理そうだけど…」
「そんな事より、咲夜を中に入れてあげなきゃ。ゆっくり休ませないと…」
「…そうね」
こうして、さと見もいなくなり、決闘も何もかも終わった。
もはやレミリア達は咲夜を休ませる、
それをする以外手段は無かった。
そして、負けてしまった咲夜はと言うと、黙ったままであったが、
先程のさと見の話しと言葉を聞いて、
何か思うかのような顔をしていた。
いったい彼女は、何を思ったのか?
それはまた、別の話し―――
「はぁ…ちょっとやり過ぎちゃったかなあ…」
紅魔館から立ち去ったさと見は、
何故だか沈んだ様子で空を飛んでいた。
「私ってバカよね…いくら嫌われるの嫌いだからって、
どうしてすぐ手を出しちゃうのかしら?
はあ…一応あっちが悪いっちゃ悪いんだけどねえ…」
どうやら、さと見は自分がした事を、
半分後悔しているようである。
そんな彼女の前方下に、古臭い建物が立ち並ぶ村か町らしきものが見えてくる。
人里だ。
「ん?アレは人里?昔とちっとも変わんないわね。
外の世界の街と比べると見劣りするわ…
でも、あそこに人間達はどうなんだろ?
…よし、ちょっと行って見るかしら。
ついでに、仲良くなれるように、頑張ってみましょ」
そう言ってさと見は、人里へ向かっていく。
次は、どのような事が彼女を待ち受けているのであろうか?
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