「よ、妖夢!?」

「誰?知り合い…みたいね。
えっと…白玉楼の庭師とその白玉楼の主人の警護やってる娘?」

「そうだ。おいミスティア、お前アイツに何をしたんだ」

「何もやってないわよ!
そこら辺飛んでたら、いきなり襲い掛かってきたのよ!!」

「ホントか?」

「ホントよ!嘘だと思うなら、
そこの覚り妖怪に私が嘘吐いてるかどうか確かめてみなさいよ!」

「…て言ってるけど」

「"コイツの言ってる事本当か?"
本当ね。そこら辺を歩いている最中に、
いきなり追いかけられたみたい」

「ほら見なさい!」

「そうか。疑ってすまなかった…」

「…うおぉい!しょこのきしゃまら〜!!」


3人がそのようなやり取りをしていた中、
やけに呂律が回らない声で、妖夢が話しかけてくる。


「な、なんだ?」

「しょこのひちめんちょーをぉ…うぃっ!
拙者によこしゅでござりゅ〜…ヒック!」

「ひちめんちょう?七面鳥の事か?でも何処に?」

「お〜前のうしりょに隠れてるりゃちゅでござりゅ〜!」

「私の後ろに隠れてる奴?」


妖夢の言葉に自分の後ろに目をやる。
だが、そこにはミスティアがいるだけで、
七面鳥など何処にもいない。
しかし妹紅は、これまでの流れから彼女が言う七面鳥は、
ミスティアの事を指していると感付いた。


「まさか…コイツの事言ってるのか?」

「はあ?!何言ってるのよ!私七面鳥じゃないわ!夜雀よ!!」

「えぇ〜い!ひちめんちょ〜が喋りゅにゃ〜!
きしゃまは今夜の幽々子しゃまの晩飯なんでござりゅ〜…
ヒック!!」

「何言ってんだお前?と言うか、その喋り方…」

「"酔ってるのか?"。酔ってるわね」

「え?」

「"どう言う事だ?"
いやあ、どうもこうも、見てよアレ…」


そう言って妖夢を指差すさと見。
妹紅は彼女に目をやると、
今の妖夢は足元がおぼつかずフラフラしており、
顔も真っ赤で目もグルグル。
その様子は誰がどう見ても酔っぱらっているようにしか見えない。


「ホントだ」

「でしょお?
今のアイツの心ン中、
酔っぱらってるせいでグッチャグチャになっててもう読めたモンじゃないわよ。
大方、酔っ払い過ぎて周りのものがまともに視認出来なくなった…
と言った所かしら?」

「だろうな。でも…」

「"アイツは酔うと喋り方は変わるが、
ここまで酷く酔うほど酒癖は悪くないはず"?
そうなの?でも、そうだとしたらあの酔いっぷりは何?」

「知らないよ。こっちが聞きたいくらいだ」

「うおぉ〜い、しょこのきしゃまら〜!
拙者を無視しゅるなでごじゃる〜!早くひちめんちょ〜をぉ…いっ!?」


そのようなやり取りを交わす妹紅とさと見の間に割って入るように口出しする妖夢だったが、
さと見の姿を見た途端、急に固まった。


「?」

「あ?なに?」

「あ…うああぁぁぁぁ…!!目玉お化けえぇぇぇぇぇ―――――!!!


そしてさと見を指差して大声で驚く妖夢。
どうやら、酔っている彼女は、
第三の目や目玉柄のケープのようなものを纏ったさと見が、
沢山の目玉を持つお化けに見えてしまったようだ。


「はあ?誰が目玉お化けよ!私はねえ…」

「むわぁー!!寄るにゃ近寄るにゃあぁ――!!
あくりょーたいしゃんあくりょーたいしゃーん!!!!」


訂正させようと妖夢に歩み寄ろうとするさと見。
だが、さと見がお化けにしか見えていない当の本人は、
呂律が回らない声で叫ぶと、
始めに持っていた刀、楼観剣ろうかんけんを投げ捨てると、
腰の鞘に指していた短刀、白楼剣はくろうけんを抜き、
さと見に斬り掛かった。


「うわ!?」


ロクな思考が回っていない妖夢の心が読めず、
行動が全く読めなかったさと見は、
いきなりの攻撃に驚きながらもサッとかわした。


「避けるた〜こしゃくにゃ〜!!
おとにゃしく拙者に斬られ〜い!!!」


そう言いながら尚もさと見に斬り掛かろうとする妖夢。
さと見はその攻撃を何度かかわすが、
相手の動きが予測不能な為か、少々押され気味だ。


「妖夢落ち着け!そいつはお化けじゃない!
だからその刀は効かな…」

「邪魔だ〜!!!」


さと見を攻撃し始めた妖夢を止めようとする妹紅だったが、
酔いでまともな思考を持っていない妖夢に通じるはずがなく、
逆に斬られそうになり避ける。


「くっ…!」

「藤原!」

「無駄よ!
今のコイツにまともな説得なんて出来ないわ!
クッ…!」


斬られそうになった妹紅に叫ぶさと見。
その直後、妖夢がまた白楼剣を振り下ろして来た為、
とっさにケープのようなものを大きくし、
右腕側でガードしつつ力一杯に弾き飛ばす。

弾き飛ばされた妖夢は、酔ってる事もあってかフラフラと後ずさった。


「はあ、結局腕尽くでどうにかしないとダメか…
仕方ない、私はさと見と一緒に妖夢を止めるから、
お前は何処か隠れてろ」

「言われなくてもそうするわよ。
あんな物騒な酔っ払いとこれ以上関わりたくないわよ」


妹紅に促され、ミスティアは何処かへ隠れる。
それを確認すると妹紅は、
妖夢の攻撃をしのぎ、ケープのようなものを元のサイズに戻したさと見の横に立つ。
それに気付いたさと見は、
妖夢を止める為に協力しに来たのだと、第三の目で覚る。


「手を貸してくれるの?ありがとう」

「これ以上ここで暴れさせる訳には行かないからな」

「ふーん。なんか正義の味方になったみたいで、面白いや」

ムグアアァァァァ―――――!!!!


妙に楽しげなさと見。
そこに妖夢が変な雄たけびを上げながら剣を構えて突っ込んでくる。


「おっと!」


2人はその攻撃を回るような動きで軽やかに回避。


「くっしょ〜!避けりゅぬあぁ〜!アリャリャリャリャ!!!!」


次に妖夢は、
変な声を出しながら剣を滅茶苦茶振り回して妹紅とさと見を斬り付けようとする。
当初はさと見を攻撃対象にしていたはずだった彼女だが、
酔いのせいか、
途中で入って来た妹紅もいつの間にか攻撃対象になっているようである。


「よっと!」

「むほあ!?」


単純な激しい振り回し攻撃をいとも容易く避ける妹紅とさと見。
その最中、妹紅は妖夢に足払いを掛けて転ばせた。


「おしっ!今度は私が…!」


続けて、さと見が転んだ妖夢に追い打ちを掛けようと近付いた。


「…フリャー!」


ビシュシュッ!

だが妖夢は、剣先から赤や青の弾を発射して攻撃してきた。


「うわっとと!」


突然の反撃に驚き、とっさに後にジャンプして避けるさと見。
その間に妖夢はフラフラと立ち上がる。


「ウリャー!!」


その直後、妹紅が横から飛び蹴りを食らわせようとするが、
妖夢は突然フラッと身体を大きく前に曲げた為、外してしまった。


「くっ!…あれ?」


狙いを外した妹紅は、体勢を立て直して着地。
すぐに妖夢の方を振り返ったが、
彼女を見て、思わず止まってしまう。

何故なら―――




「フヒハハホハハハ〜♪フフィ〜♪」


何故なら、妖夢は変な声を出し、白楼剣を振りながら踊っていたのだ。


「こ、今度は何やってるんだ…」

「あぁ…酔い過ぎて完璧に頭逝っちゃってるわ、コイツ…ん?」

ホヤウハオオォォォ――――!!!!


呆れる2人だったが、
妖夢はいきなり踊りを止めて剣を構えると、
奇声を発しながらさと見に突撃して来る。


「うわ!危ない!!」


ギリギリの所で避けるさと見。
狙いを外した妖夢は、
勢い余って後ろに詰まれていた桶に衝突。
その衝撃で、桶がガゴゴーン!と音を立てて妖夢目掛けて崩れ落ちた。


ウババボゴアガガ!!!


奇声と共に桶に埋もれて行く妖夢。
それを見たさと見は、妹紅にこう言った。


「ね、ねえ…
アイツこのまま暴れさせといたら、
どっかにぶつかって勝手に気絶するんじゃない?」

「バカ言え。
その間に被害が出ちゃ意味が無い。ここで食い止めるべきだ」

「でもさあ、アイツ変な動きばっかで、まともなペースで戦えないんだけど…」


ドゴォ―――――ン!!!

と、嫌そうな様子を見せるさと見だったが、
その瞬間、桶を吹き飛ばし、
その中に埋もれていた妖夢が飛び出す。


「あ…」

ウグアァァァァ!!!!
あくりょーめぇぇ――――!!!しゃっしゃと消えr寓意アssakjdslkdjklas!!!!



シュンシュンシュン!!!!

今ので気絶するどころか、ますます酷くなっている様子な妖夢。
彼女はもはや言葉にならないような声を上げると、
白楼剣を滅茶苦茶に振り回す。
すると、今度は振った所から三日月型の斬激が周りに飛び出す。


「うわ!」

「ひゃー!」


斬激の嵐に、妹紅とさと見は慌てて避け回る。


「こ、こうなったら…!」


ここに来てさと見は、ショートワープを使用。
消えて出てを繰り返しながら妖夢に接近し、
蹴りを入れようとする。


「フニョォ〜」


だが、妖夢は突然斬激を放つのをやめ、
気の抜ける声と共にフラフラとした動きで避けてしまった。


「あーもう!頼むからいきなり変な動きするな!!」

「フハhahsjadsdjkdjklsdsdf;slf;♪♪♪♪」

「…!コンニャロー!」


意味不明な声と変な動きを続ける妖夢。
バカにされてるような気分になったさと見は、
両手で彼女に掴みかかろうとしたが、
妖夢はいきなりその場からジャンプしてかわした。


「あり?…フギィッ!?」


掴みを外し、一瞬動きを止めるさと見。
その隙にと言わんばかりに妖夢はさと見の頭を思い切り踏みつけ、
更に踏み台にするようにして高く飛んだ。


「フヒョヒョヒョ〜♪ウォロア〜…フギャァ―――!?」


ズザーッ!

変な笑い声を上げながら飛ぶ妖夢だったが、
その直後いい加減にしろと言わんばかりに、
妹紅に後ろ頭を思い切り蹴られ、
勢い良く地面に落ちた後、数センチメートル滑った。


「フギギギ…ふゆ?」


後頭部と地面を滑った身体の痛みに、唸り声を上げて顔を上げる妖夢。
すると、彼女の目の前に、遠くに女性が1人いるのが見える。


グアアァァァ――――――!!!きしゃま、よくも拙者の頭うぉおぉぉぉ――――!!!!


その姿を見た妖夢は激しい酔いのせいで、
その女性を自分の後ろ頭を蹴った妹紅と勘違い。
女性目掛けて飛び出す。


「マズイ!なんでこんな時に限って誰かいるんだよ…!」

「いてて…え?」


妖夢を止めようと飛び出す妹紅。
一方、未だ痛む頭を押さえていたさと見も、妹紅の声に状況に気付く。
そして当の妖夢はと言うと、白楼剣を振りかざし、
猛スピードで女性の前に接近。
女性はそれに気付いてキャー!と悲鳴を上げていた。


「ダメだ、間に合わない…!ん?」


ヒュッ!ヒュッ!ヒュッ!

既に相当距離が離れていた為、
間に合わないと思う妹紅だったが、
そんな彼女の横をさと見がショートワープを繰り返し追い越して行った。


「このぉ…!」

「ムギッ!?」


そして、さと見は女性に斬り掛かろうとする妖夢を、
後ろから羽交い絞めにして押さえこんだ。


「ムギョー!誰どぅあ、はにゃせ―――!!!」

「え?」


振り払おうと暴れる妖夢。

自身にとって唐突に現れた見知らぬ人物さと見が、
妖夢を押さえこむと言う展開に女性は呆気にとられたが、
さと見は暴れるを押さえながら、「早く逃げなさいよ!」と強く言い放った。


「あ、あ…はい!」


状況を理解した女性は、すぐさまその場から逃げ出した。


「ムギャ―――!!逃げりゅな――――!!!」

「うっさいわね!アンタの相手は…私だろが!!」


女性に逃げられ暴れ叫ぶ妖夢。
そんな彼女にさと見は怒鳴り付けるような声を上げると、
彼女を一旦放して背中を蹴った。


「グギィ―――!?こんにょー!ガトチュジェロシュタイル!!!!!


背中を蹴られた妖夢は、意味不明な技名をらしきものを叫びながら、
振り向きざまに白楼剣で酔ってる動きとは思えないほどの猛スピードで、
突き攻撃を放った。


「うわわっと!!」

「フニャアアァァァァ――――…ふにゅ?」


ズバッ!ザクッ!

またしても心が読めない唐突な攻撃に、さと見は驚きつつ回避するが、
微妙に遅れたのか服の左側に少しだけ当たり、切れてしまう。
一方、妖夢は外れてもなおも前進したのだが、
勢い余って民家の壁に白楼剣が突き刺さってしまった。


「グニュー!!グニニニ…!!」


突き刺さった白楼剣を引っこ抜こうとする妖夢。
だが、勢い余って突き刺さった白楼剣はかなり深く刺さってるのか、
中々抜けない。


「うらぁー!!」

「グギャー!!!??」


そこに追い付いた妹紅が登場。
横から妖夢を殴り飛ばす。
そして、ニッとした顔をさと見に向け、
さと見も彼女の心を読み、無言で笑い返す。


「むぐあぁさkd〜!!!!
イッテェェェエlあksl−−−−…あぁぁっぁぁぁ――――――!!!!」


殴り飛ばされた妖夢は、
意味不明な声を上げながら体勢を立て直し、
白楼剣に目をやると、
その剣の前で腕を組んで立ち尽くす妹紅とさと見の姿が―――


「フフフ…」

「コイツを返して欲しかったら、私らを倒してみるんだな!」

「こんにゃろ〜!!ひゅさmんshdjs!!!!」


意味不明な言葉を叫びながら怒る妖夢は、
剣も持たない丸腰状態で2人に向かっていく。
だが、リーチのある剣さえなければ怖くないと言わんばかりに、
さと見は前に出ると、帽子を取って彼女の顔に被せ、押さえ込む。


「ムゴゴムゴムゴゴゴ!?」

「にぃ…えーい!」


押さえ込んだ妖夢をさと見はしばらく振り回した後、
妹紅にパスするよう放す。


「このぉ!」

「グゲゲ!がぁ…!」


ゴッ!

さと見に放され、
こちらにやって来た妖夢を身体で受け止めた後、
妹紅は彼女の腹に膝蹴りを入れる。
腹に一撃をくわえられた妖夢は、痛みで腹を押さえてよろめく。


「でりゃぁ!!」

「ふぎゃ!?ぐええぇ―――!!!」


ドン!

すかさず、妹紅は彼女の片腕を掴むと、
そのまま背負い投げを仕掛け、妖夢を地面に叩き付けた。


「ウギギ…おががが…」

「どうだ?」


全身の痛みに唸る妖夢。
妹紅は距離を取る為、さと見と並ぶ位置にまで下がった後、
やったかどうか様子を見る。


「ハアァァァ…!」


するとどうだろうか?
妖夢はよろめきながらも立ち上がったではないか!


「な!?」

「こんにゃろぉ…むぉぉぉぉぉ〜怒ったでごじゃりゅ〜!
きしゃまりゃ!拙者が剣無しじゃぬぁにもでけんやちゅだと思うたら、
おー間違いだ〜!今から丸腰限定ひっさちゅ奥義見せてやるで〜ごじゃりゅ!!
はあぁぁぁぁぁぁぁ…!!!」


驚く妹紅とさと見を前に、妖夢は呂律が回らない声でそう言うと、
両手を天に掲げ、気合を溜めるような素振りを見せ―――


「ガクッ!」


バタッ!

たかと思えば、うつ伏せに倒れた。


「あ…あれ?」


いきなり倒れた妖夢の姿に、妹紅は拍子抜けしてか思わず固まる。
それはさと見も同じだったが、
彼女は妖夢の心を探ってみると、何が起きたのかすぐに理解する。


「ね、ねえ…コイツ、気を失ったみたいよ」

「え?嘘だろ?」

「いや、嘘じゃない…
急にグチャグチャしてた心の声が途切れちゃったもの…
嘘だと思うなら触ってみなさいよ」

「ああ…」


さと見に言われ、妹紅は倒れた妖夢を突いている。
だが、妖夢は反応せず、倒れたまま―――
さと見の言う通り、気を失っているようだ。


「本当だ…」

「でしょ?」

「じゃあ、今のは何だったんだ?」

「さあ?
酔い過ぎて気絶するほどのダメージ受けてる事に、気付かなかったんじゃない?」

「ああ、そうかもな。…まあ、とにもかくにも一応…」

「"片は付いたな"
ええ。ホント、タチの悪い酔っ払いだったわ…」

「確かにそうだが…」

「…なに?コイツがここまでの酔っ払いになったのが信じられないのね?」

「ああ。
さっきも言ったが、妖夢はそんなに酒癖は悪くない。
ましてや昼間から酒を入れてるなんて…ん?」

「何?…うほっ?!」


何かの存在に気付く妹紅の様子にさと見は後ろを振り返ると、
何故か妙な声を上げる。

何故ならそこには、周りに多数の幽霊を浮かばせながら、ゆっくりと浮遊してこちらに近付く、
赤い人魂のマークらしきものが描かれた青い帽子を被り、
青い着物を身に纏った、
ピンク色で若干ウェーブがかった髪を生やし、
やや大きめに出っ張った胸や締まり気味のウェストが目を引く女性がいたからだ。


「何あの人?良い体してる…」

「(良い体?)
アイツは西行寺幽々子さいぎょうじゆゆこ
さっき私が心の中で言っていた、妖夢の主人だ」

「え?この人が?!
へえ、妖夢あんな良い体してる人の下で働いてるんだぁ〜…
羨ましい〜」

「は、はあ?」


いやらしい表情を浮かべるさと見の姿に、妹紅は困惑する。
そんな彼女をよそに、
幽々子はゆっくりと目の前までやって来ると、
浮遊させていた足を地面に着け、話しかける。


「あらあら誰かと思えば、妹紅じゃない。
御機嫌よう」

「御機嫌よう、白玉楼のご主人様。
私の生き肝を狙って来たんじゃないだろうな?」

「そんな訳無いじゃないの。私がここに来たのは〜…
あら?そこにいる方は誰?お知り合い?」

「ああ、コイツは古石さと見。今日知り合ったばかりの覚り妖怪だ」

「へぇ〜覚り妖怪なの?
道理で第三の目があると思ったら…」


どうやら、最初から覚り妖怪だと言う事に感付いていたらしく、
さと見の種族を聞かされ納得する幽々子。
妹紅に自分の事を紹介されたさと見は何か言おうと思ったが、
妹紅が妖夢の事に付いて聞きたがっていると思っているのが見えていた為、
笑顔のままあえて何も言わない。


「それより幽々子、いったい妖夢に何があったんだ?
酔っぱらって暴れてたぞ」

「そうそう、その事なんだけど〜…
この子、休憩中にお水と間違えて"亡霊殺し"を飲んじゃったのよぉ」

「亡霊…」

「殺し?」


聞き慣れない名前に、妹紅とさと見は首を傾げる。
2人の様子に幽々子は亡霊殺しを知らないのだと気付き、
説明を始める。


「亡霊殺しって言うのはねぇ、西行寺家秘蔵のお酒で、
"亡霊が死んじゃうくらい美味しいお酒"と名高いの。
でも、その代わり、この世のものとは思えないほど相当キツくてねぇ〜…
いくらお酒に強くても、
妖夢程度の子じゃあ、一杯飲んだだけで悪酔いしちゃうのよ。
今日たまたま倉庫を漁っていたら、
昔のままの状態で保存されてたのを見つけたから、
一杯だけでも飲んどこうと思って出していたら…」

「妖夢が間違えて飲んで酔っ払い
白玉楼を飛び出したもので探しに来たらここに来た…
って事ね?」

「そう言う事。
まさか人里まで降りて暴れてたとは、
思ってもみなかったけどね。
とにかく、貴女達には迷惑かけちゃったわね」

「全くだ。白玉楼の主人なら、
自分が飲む酒の管理くらいきっちりしとけよ」

「あら?私にそんな口を聞くなんて、さすがは不死者。
肝が据わってるわねえ〜」

「そんなの関係無いだろ?
当たり前の事だ」

「まあ、そう言う事にしとくわ〜…
それにしても…」


そう言って幽々子は、
クンクンと鼻を動かして辺りの匂いを嗅ぐような仕草を見せる。


「どうした?」

「な〜んか、近くに美味しそうな小鳥さんの匂いがするんだけどな〜…」

「小鳥さん?ああ、それなら…え?」


小鳥と聞いて、ミスティアの事を言おうとするさと見だったが、
妹紅が手を伸ばし制止を掛ける。
同時に彼女の心の声から、
幽々子の前で言ってはいけない事だと分かって口を閉じ、
即座に妹紅が答える。


「気のせいじゃないか?ここは人里だぜ?」

「ん〜…そうみたいね〜。
じゃ、妖夢も見付かった事だし、帰らせてもらうわよ」

「さっさと帰ってくれ…
起きてまた暴れられたら困る」


若干皮肉混ざりな一言をこぼす妹紅。
その後幽々子は、妖夢が使っていた白楼剣、楼観剣を回収し、
気絶している妖夢を連れ帰っていった。


「人騒がせな奴だ…」

「ええ。でも、あの幽々子って人、結構奥手ね。
アンタがミスティアの事誤魔化してたの、最初から気付いていたわよ」

「アイツは、普段は掴み所無いように見えて、
意外と頭がキレる所があるからな」

「それを知ったうえで誤魔化しましたか。
ふーん、中々良い女ね。可愛いし、良い体してるし…」

「…そ、それよりも。ミスティア、もう出て来ても大丈夫だぞ」


幽々子と妖夢がいなくなったのを確認し、ミスティアを呼ぶ妹紅。
すると、何処かに隠れていたミスティアが、
ふぅ…と一息吐きながら姿を現した。


「はあ、怖かったぁ…幽々子まで出て来るなんて…」

「今回は災難だったな。
白玉楼に住んでる奴に目を付けられるなんて」

「全くよ…
もう、アイツったらいつも私を焼き鳥扱いして付け狙うもの…
恐怖以外の何者でも無い」

「でも、次にお前が人里で何かやったら、
今度はお前が敵だ。分かってるな?」

「分かってるわよぉ…
アンタもアンタで、私の事焼き鳥にしそうな奴だしね」

「フッ、焼き鳥扱いされてるのはこっちだ。しかも悪い意味でな」

「焼き鳥に良い意味なんて無いわよ。
でも、今回は感謝しとくし、これ以上何もしないでおくわ。
それじゃあね…」


そう言うとミスティアは、飛び去って行った。
そのやり取りを見て、さと見は感心する。


「なるほど、さすがは妖怪退治を所業とした蓬莱人。
人間を襲う可能性のある奴の警戒を怠らないのね。」

「まあな。しかし…」

「"大丈夫だったか?"
何が?…ああ、アイツが心読めない奴だったから?
大丈夫、私心を読めない状態は意外と慣れてるのよ。
むしろアイツの場合は動きがダメだったわね、動きが…」

「だよな…」

「"お前の言う通り、今回はペースを乱されたな"
ええ。あんなのはもうコリゴリだわ…
あれ?」

「どうした?…ん?」


自分の後ろを見て何かに気付くさと見に、
妹紅は後ろを振り返る。
するとそこには、先程妖夢に斬られそうになっていた女性の姿が―――


「お前は…」

「さっきの…逃げたんじゃなかったの?」

「は、はい…その…」

「"助けてくれたお礼を言いに来たんです…"」

「ふぇ!?何で私が言おうとした事が…あ」


と、女性はさと見の左胸にある第三の目の存在に気が付く。


「そ、その目…!」

「"ひょっとして、覚り!?"
ええ、私は覚り。
覚り妖怪の古石さと見…
二十歳はたちのさと見よ」

「(コイツ、何処まで二十歳はたちを強調する気なんだ?)」


さと見の名乗りに、いよいよ呆れ出す妹紅だが、
さと見はその心の声を無視―――
と言うより、目の前の女性の心の声の方が気になった。

何故なら彼女は、
さと見が覚り妖怪だと分かって半分怖がってはいたが、
その場から逃げようと言う気持ちが無く、
むしろ感謝の気持ちの方が大きかったからだ。


「アンタ、逃げないの?」

「ふぇ?何でですか?」

「だって、他の人間達は、私が覚りだって知った途端逃げたわよ?」

「な、何言ってるんですか!」

「"何でせっかく助けてくれた人を前に、
逃げなきゃならないんですか!そんなの最低です!!"
あ、アンタ…」


女性の心を読み、さと見は表情を緩める。
その横で妹紅が笑顔で、
「良かったな、お前の事を理解してくれる人間がいて」と心の中で言いながら、
さと見の肩をポンと手を置く。
そして、肩に手を置かれたさと見も、嬉しそうな笑顔を妹紅に送った。


「あー!」


だがその時だった。
さと見をジッと見ていた女性が、声を上げた。


「どうした?」

「さ、さと見さん、怪我してるじゃないですか!」

「へ?」

「なんだって?!」


女性の言葉に、妹紅はさと見に目をやると、
彼女は左頬と右脇腹に斬り傷とドス黒い血が出ているのに気付く。
妖夢との戦いでいつの間にか付いたものだと、
2人は思ったが、それは大きな間違いで、
本当は紅魔館での咲夜との決闘で付いたものだった。


「…ちょっと、コレ妖夢に付けられた奴じゃないわよ。
こっちに来る前にちょっとある奴と決闘してて、
その時付けられた奴よ。
今すぐ付いたようには見えないでしょ?」

「確かに…」

「でも、その割にはまだちょっと血が出てるじゃないですか。
手当てした方が…あら?」

「今度はなに?…はっ!」


その時、女性はさと見の体を見て、何かを見付ける。
それは、先程妖夢に斬られ、穴が開いた服の左脇腹の部分で、
その切り口にさと見の素肌が見えていた。
だが、その隙間から見える彼女の左脇腹の肌には、
筋状の何かに見えるようなものが見え隠れしており、
彼女は女性がそれに気付いたのだと分かり、ケープのようなもので隠しながら背を向ける。


「な、何でも無い!」

「ちょっと、今何か隠しませんでしたか?」

「か、隠して何か無いわよ!」

「だったらなんで急に後ろを向くんです?」

「そうだ。絶対何か隠してるだろ!」

「隠して何かないって!!」

「じゃあ、こっち向いて下さいよ!怪我の手当てもしなくちゃ…」


お願いだから止めて!!!!


「「!!」」


隠した部分を見せる事を大声で拒否するさと見。
突然の大声に、2人は驚き固まってしまう。
そんな2人の姿と心に、さと見はハッと我に帰る。


「ご、ごめんなさい…!
心配してくれてる気持ち、読めてたのに…」

「い、いえ…こちらこそ、その…ごめんなさい…」

「私からも謝る…
嫌がっているのに、無理に見ようとして…」

「…分かってくれたのね。
でも、やっぱり気になる…怪我の手当てもしたい…」

「は、はい…」

「…残念だけど、私の体を見る様な事はしないで…
どうしても嫌…」

「そ、そうですか…すみません…」


シュンとする女性。
そんな彼女の様子と心を見たさと見は、
少しでも落ち込んだ気分を和らげてあげようと、こう言った。


「気にしないで良いのよ…
私が勝手に嫌がってるだけだから…」

「………………」


だが、女性はシュンとしたままで、何処かやるせない様だ。
そんな気持ちが第三の目を通してさと見にもヒシヒシと伝わって来る。
そんな彼女のやるせない心の声に、
さと見は少しだけこの場にいづらくなってこう切り出した。


「ねえ、妹紅…
で合ってるわね。ちょっと聞きたい事あるんだけど…」

「なんだ?」

「地底の入り口って何処にあるの?」

「あっちだが…」

「"そんなの聞いてどうするんだ?"
決まってるじゃない。
いい加減さとりとこいしの所に元気な顔見せに行こうと思ってね。
実はアイツらにロクに顔見せないまま外の世界行っちゃったから、
心配してると思うのよ」

「そうか。でも…」

「"もうここを出て行くのか?"
ええ。どうやらここの人間達にとって、私はお払い箱みたいだし、
もうする事無いし…
まあでも、人間もまだまだ捨てたものじゃないって事は分かったけどね」


そう言いながらさと見は、隠した部分を見せないよう気を付けつつ、
笑顔で落ち込んでいる女性の前に来ると、その肩を軽く叩く。
すると、女性は落ち込んでいた表情が少しだけ緩んだ。


「じゃあ、気を付けなよ。
ミスティアとお前は、私が説得して出て行ってもらった事にするから」

「それで構わないわ。じゃ、また何か縁があったら会いましょう」


フッ!

そう言い残すと、さと見はその場から消え失せた。


「消えた?
さっきもワープみたいなのを使ってたが、
アイツはさとりと同じようで違う力も持ってるのか…」

「あ、あの…」

「…どうした?」

「私…その…最後の最後で、あの方に失礼なことを…」

「確かに、お前の姿を見て少し辛かっただろうな。
覚りは本心を見抜いてしまうから…」

「ですよね…あのような事を言ってくれたのに…」

「だったら、今度は明るい気持ちを持って接したら良いんじゃないか?
アイツにキツく当たられて沈んでしまった事を、
次に会うまでにきっちり水に流してしまえば、
アイツだって気持ちが軽くなるさ」

「はい!
私、次はそんな気持ちで臨めるよう、頑張ります!
でも…」

「どうした?」

「いったいさと見さんは、何を隠そうとしていたのでしょうか?」

「そう言えば…いったい、何だろう?」


左脇腹を見られるのを頑なに拒否したさと見の行動に、
妹紅と女性は、疑問を浮かべ空を見上げる。

だが、その謎に答えてくれる者は、誰もいない―――





「ここか…」


妹紅に言われた方向を頼りに、
地底もとい旧地獄への縦穴に辿り着いたさと見。
その穴からは、他の穴とは違う異様な空気が漂っていた。

それは、地下に封じられた禍々しい者達の解放されたい事への苦痛の叫びか、
はたまた単なる気配だけなのか―――


「すっごい…
何か良く分からないけど、凄い…
何かワクワクしちゃうわ。でも…」


ふと、さと見は右脇腹の傷と、穴が開いた服の左脇腹に目をやる。
右側は相変わらず微妙な出血が続く傷があったが、
左側はやはり肌に付いた筋状の何かが見え隠れしている。

「あの人達に、酷い事言っちゃった…
でも、本当に見られたくないのよね…
右っかわは血のおかげで目立たないけど、左っかわは…
ん!?」


と、その時。
さと見はまた誰かの視線を感じて自分から見て横の方向に目をやるが、
そこには誰もいない。


「(また誰かの視線…
しかもこの感じ、さっき人里で感じた視線と同じだわ。
まさか…誰かが隠れて私の事をずっと見ている?
…でもおかしい。
それなら、心の声が聞こえてるはずなんだけど…)」


さと見は、顎に手を当ててしばし考えたが、
すぐにフフンとした顔をして止める。


「(ま、良いわ。
案外ほっといたら向こうから出て来るかもしれない。
それなら、私は私の目的を進めましょう)」


そう決めると、さと見はその場から身体を回転させつつジャンプし、
縦穴へと飛び込んで行った。

いよいよ、かつての友古明地姉妹がいる地底へと飛び込んださと見。
果たして、無事再会なるか?



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