「さて、これからどうするつもりなのですか?」

「どうするって・・・何が?」


過去を全て話し、上の服を着直しながらすさと見は、
問い掛けてくるさとりに聞き返す。
が、すぐに彼女の心を読んでどう言う意味か理解する。


「あぁ…"これから何処に住むのか"でしょ?」

「そうです。
外の世界でもそれなりに暮らしていたのでしょう?
ならば、こちらでも居を構えないといけませんよ」

「そうねえ…その辺の事どうするか、全然考えてなかったわぁ」


完全に服を着直し、第三の目とケープを着け直すと、
さと見は困った様子で腕を組む。
そんな彼女に、こいしはこう言った。


「じゃあさ、サミもここに住んじゃいなよ!
サミもいたら、地霊殿の管理もグッと楽になると思うよ!」

「ん〜まあ、それも良いわよね。
久々に出会った親友達と、同居生活…な〜んてね」


と、ちょっと冗談を言ってみるさと見。


「あー!」


だが、次の瞬間。
蛇丸が思い大した様子で大声を上げた。


「うにゅ?」

「どうしたの?」

「し、しまった!アイツとの約束をすっかり忘れていた!!」

「アイツ?」


慌てた様子の蛇丸が発したアイツに反応するさと見だったが、
彼の心を読み、誰の事を指しているのか理解し、
ニヤけた顔をする。


「へぇー、アンタガールフレンドいるんだぁー」

「!こ、心を読んだな貴様…!」

「いやぁー、どう足掻いたって見えちゃうからねえ…
それで?相手どんな娘?どんくらい付き合ってんの?」

「お前が知る事じゃない!」

「ははぁ〜ん…相思相愛で、結構進んでるんだ〜。
隅に置けないな〜」

「……………!」

「さと見!いい加減にしなさい!」


勝手に話しを進めるさと見に、
蛇丸は顔を真っ赤にするが、そこにさとりが割って入る。


「さ、さとり…」

「これ以上からかわないの。嫌がってるでしょう?」

「ご、ごめん…」

「フッ」


お咎めを食らうさと見に、
蛇丸は勝ち誇ったように含み笑いをし、
彼女らに背を向けて部屋から出て行こうと歩き出す。


「それじゃあ、行ってくる。ホントに早く行かないとヤバい」

「ええ、行ってらっしゃい」


さとりに見送られながら、蛇丸は部屋を出て行った。


「行っちゃったね」

「大丈夫かしら?」

「それは彼女の機嫌と、彼次第よ。
それより、さと見が住む場所についてだけど…あら?」


そしてさと見の住居についての話しの続きを始めようと思ったさとりだったが、
いつの間にか話しの対象になっているさと見が、
忽然と消えている事に気が付く。


「彼女は何処に?」

「あ、あれ?ホントだいない」

「何処行っちゃったんだろ?」


キョロキョロと周りを見回すさとりとペット2人。

いったい、いつの間に?

ほんの数秒前まで、ここにいたはずなのに―――

それに、この部屋の出入り口は先程蛇丸が出て行った所1つだけ。
しかし、蛇丸以外に出入り口を通った者はいない。
その上、出て行くなら心の声ですぐに分かるはず―――

とすれば、まさか―――

さとりが確信を持った辺りで、こいしが口を開く。


「ああ、サミならさっき呪之助に着いてっちゃったよ。
無意識を操ってね」

「や、やっぱり…」


こいしの言葉にさとりは先程の様に彼をからかいやしないか、
心配になる。

だが、これが図らずともさと見が住居を見付けるきっかけになるとは、
彼女も本人も予想だにしていなかった―――





そして当の蛇丸本人は、
地霊殿から出ると、足早に旧都へ向かう。
そして、旧都に入ってもペースを崩さない。

早く待たせている相手が待つ店に行きたいのだろう。


「こんな早足で進むとは、
そんなに早くカノジョに顔見せてやりたいの?」


そんな様子で街中を黙って進んで行く蛇丸に、横から誰かが話しかける。


「まあ、それもあるが、怒らせると意外と怖いんだ…
え?」


と、話しかけた誰かに答える蛇丸だったが、
その声に何かがおかしいと感じ、横に振りかえる。

すると―――




「ん?どうしたの?」

「うわぁ!」


何と、自身の横には客間に残したはずのさと見が、
それも超至近距離におり、蛇丸は驚きの声を上げて飛び上がる。
そんな彼の声に周りにいた旧都の住民が何事かと一斉に、彼に目を向ける。


「大声出さないの。
今、みんなの無意識操ってるから、アンタにしか私の姿は見えていないわよ」

「大声出すなって…驚かせて置いて何を言って…
と言うか、何故着いて来た?!
さとり達と住む場所の話しをするんじゃなかったのか?」

「んーまあ、そうなんだけどね、
アンタのカノジョがどーしても気になるから、無断で後回しにする事にしたのよ」

「良いのかそれで?!」

「うん。カノジョ見たら、すぐ戻る予定だから」

「本当か?」

「本当よ。それより、
周りには私の事が見えてない事をちゃーんと考えて頂戴ね」

「え?」


一瞬さと見が何を言っているのか分からなかった蛇丸だったが、
さと見がイタズラな笑みを浮かべながら周りを指差した事で理解した。
彼が周りを見ると、周りにいる旧都の住民は変な目で蛇丸を見ている。
そう、さと見の姿が見えない彼らには、
蛇丸が1人で誰かと会話している真似をしているようにしか見えなかったのだ。


「き、貴様…」

「はいはい、こっち見ないこっち見ない」

「クッ…!」


憎々しげな蛇丸だったが、
さと見は特に動じず、尚も自分の存在を気にするなとして来る。
確かに彼女の言う通りである為、蛇丸は悔しげに諦め、
そのまま進むしかなくなってしまった。





それから、蛇丸はさと見にカノジョの事について何度か茶化されながらも、
自分が行こうとしていた店にまで到着した。


「ここ?」

「ここだ。それより、本当にアイツを見たらすぐ地霊殿へ帰るんだろうな?」

「心配しなくても大丈夫だって。
その辺の約束は守るから。
…にしても、この店の名前、何て言うの?
えっと…じょぉ…」


店の上に掲げられた手作り感があふれる看板に大きく書かれた店の名前を、
若干もたついたように読もうとするさと見。
そんな彼女を助けるかのごとく、蛇丸は「少々良屋」だと言った。


「少々良屋?じょじょらって…
なんか寒くて硬い子がいそうな名前ね」

「はあ?」

「いや、こっちの話し。だから、気にしないでさっさと入りなさいよ」

「あ?あぁ…」


さと見が言った事の意味が気になったが、
彼女を待たせちゃいけないと思っていた蛇丸は、店の戸を開ける。
その中で待っているであろう、
彼のカノジョの姿がようやく見れると、さと見はワクワクした様子で後ろから見守る。

だが―――




ヒュンッ―――!


「いっ!?」

「ブッ!?」


戸を開けるて出て来たのは蛇丸のカノジョではなく、
ハート柄の傘。
しかもまっすぐ飛きたもので、蛇丸は素早くかわしたが、
一方でさと見は余りにも予想外のものが飛んできたからか、
反応が遅れて顔面にぶつかり、倒れてしまった。


「…!」


倒れるさと見の姿を見て、蛇丸は恐る恐ると前を振り返る。
そこには、お姫様カットに良く似た髪形をした、
赤い服と、ヒマワリのアップリケが付いた赤いスカートを着用した、
黒髪の少女が、怖い笑顔で蛇丸を見ている。

彼女は立花小花。

そう、彼が待たしていたのは彼女であった。


「呪之助く〜ん、久し振り…
随分遅かったけど、どうしたのかな〜…?」


いつも通りの舌足らずな声で、
それでいて可愛らしく喋って見せる小花。
しかし、この時はそれがかえって怖く感じる。

そして、さっき飛んできた傘―――
避けてしまった為さと見に当たってしまったが、
明らかに蛇丸を狙ってのものだった。

いつも彼女に会っている蛇丸は、それを見てすぐにこう確信した。

怒っていると―――


「い、いや…これにはちょっと訳があって…」


とりあえず、機嫌を直してもらおうと遅れた理由を話そうとする。


くぉらあぁぁぁぁぁ――――――――!!


だがその時、顔面に傘をぶつけられて倒れていたさと見が、
怒り心頭なご様子で起き上がると、
第三の目を開けて能力を解除。
蛇丸を突き飛ばして小花に掴みかかった。


「うわっ!」

「きゃっ…!だ、誰…!?」

「誰じゃないわよ!さっきの傘アンタがやったの!?
凄く痛かったわよ!!鼻折れたかと思ったわあ!!」

「ちょ、ちょっと待って…
べ、別に貴女は狙って…うぅ、それより…!」

「"痛いから止めて"?
何泣きごと言ってんのよ!!
この程度の痛み、気にするほどのモンじゃないでしょ!!」

「で、でも苦しい…!」


自分にとって見知らぬ妖怪に掴まれ怒られで、
訳が分からないままでいる小花。
蛇丸はすぐに止めに入ろうと思ったが―――


「うわっ!?」


その必要は無くなった。
突然、長い舌のようなものがさと見の足に巻き付き、
彼女を転ばせたのだ。
そして、さと見が転んだ事で、小花も解放された。


「イタタタタ…」


痛そうな様子を見せる小花に、
蛇丸は「大丈夫か?」と言いながら掛けよる。


「イタタじゃないわよ!誰よいったい!?出て来なs…」

「コラ!そんな理由で、これ以上ウチの店で暴れないでくれでやす」


一方、転ばされたさと見は更に怒りを募らせ、
起き上がって声を張り上げようとしたが、また別の誰かが怒鳴りつけて来る。
その声を聞き、さと見は声がした方を見ると、
そこには赤い模様に1つ目と口が描かれたような、
舌が生えた白い傘を片手に持った、左胸に赤い目玉の缶バッヂが付いた黒い服を来た、
黒髪のオッドアイの少女が立っていた。


「ん?アンタ、誰?」

「ワチキは…」

「"少々良大傘、この店の店長のから傘お化けでやんす。
以後、お見知りおきを…"
へえ…アンタがこの店の…」

「あ、ありぃ!?何でワチキが言おうとした事を…
はっ!さては君!」

「"覚り妖怪でやすな!?"
その通り、私は古石さと見。はt…」

「うわぁー!嘘ぉ!凄いでやんす〜!!」


さと見が覚り妖怪だと知った途端、大傘は目を輝かせながら彼女を見て回る。


「え?あ…ちょ、ちょっと?何喜んでるのよ?
…さとり以外の覚り妖怪に会えて、嬉しいから?」

「そうでやんす!
まさかまさか、憧れのさとり様の同族がまだいたなんて…
いやあ、面白くて素敵で…!」

「(な、何なのコイツ?
さとりへの凄まじい程の崇拝心…
なんかノリがおかしい)」

「ちょっと大傘さん、お会計まだなんですか?
さっさとしないとただじゃ済みませんよ?」


大傘の心に、さすがのさと見も戸惑いを隠せない。
そんな中、店の奥から会計を待つ少女の声が聞こえて来た為、
大傘の注意はそちらに向く。


「あ…はいは〜い、ただ今〜。
…おっかしいなぁ、彼女ら何やってんでやしょうか?」


会計を取ろうと、
大傘はさと見に向かって「また後で」と言いながら、
声がした方へと去っていく。
だがさと見は、何があるか気になり彼女の後を着いて行った。


「…誰?さと見って、言ってたけど…?」

「俺の主人の昔の友達兼俺の知り合いだ。
来るのが遅れたのは、アイツの昔話を聞いていたからなんだ」
大傘について行くさと見を見ながら小花は蛇丸に問うと、
蛇丸はさと見について軽く説明し、
来るのが遅れた理由もさり気なく混ぜ込む。
彼の答えを聞き、小花は「へえ…」と感心していたが、
突然、蛇丸に疑いの目を向ける。


「な、なんだよ?」

「まさかとは思うけど…彼女と何かあるんじゃないの…?」


どうやら、蛇丸はさと見と何か関係を持っているのではないかと疑っているらしい。
それを見た蛇丸は、
「そんな事か…」と思いつつ、こう答えた。


「別に何でも無い。あったら、今頃俺に着いて回っているだろう?」

「なら、良いけど…」


そう答えるものの、小花の表情はどこか腑に落ちない。


「…どうした?まだ信用できないのか?」

「うーん…まあ…」

「じゃ、これからアイツの事を良く見ておけよ。
そうすれば信じたくなるって」

「えぇ、そこまで言うなら…」


こうして、2人もさと見の後へ着いて行った。


「はいは〜い、お待たせしました」


一方、大傘はレジまで到着。
レジの前には緑色の髪をした巫女姿の少女が立っている。
どうやら、彼女が大傘を呼んだ。


「遅いですよ。もう1秒遅れていたら、吹き飛ばしていましたよ」

「はいはい、可愛い顔して強盗じみた発言しない。
と言うか、代わりの妖怪置いといたのに、
何で誰もいないんでやんすか?」

「それが、見て下さいよあれ」


客人の少女が店の奥を指差すと、
その奥には銀、黒、赤、金の三角形がちりばめられたような柄の頭巾を目深に被ったメディスンみたいな外見の少女と、
白いワンピース姿で黒いショートヘアの、
5歳前後の小さい少女が何かをやっていた。


「はぁ…またサボりでやんすか…」


溜め息を吐きながら呟くと、大傘は奥の2人の元へ近付いて行く。


「こら!レジ頼むって言ったのに、なぁにやってんでやすか?!」


近付いて早々、怒鳴りつける大傘。
しかし、2人の内頭巾の少女はこう言い返す。


「相手が人間だから、行かないと判断した」

「…あのね、お客さんに種族は関係無いんでやす。
種族で接客する相手決めてちゃ、
店の経営なんてまともに出来ないでやんすよ?」

「嫌である。
人間は、つまらなくなったら我々を捨てる、世界のガン細胞だ。
ガン細胞と向き合い、良い方向に行く確立、0%」

「相変わらず好きでやすねえ、変な計算ごっこ…
遊んでる暇があったら、ささっとお会計済ますでやんす!」

「断る!」


大傘の言葉に、頭巾の少女はキッパリ断った。
これに大傘は頭を抱えた。


「そんな事言わないで、
決められた仕事はきちんとやってくれでやんす。
後、君も」


そう言ってビシッとワンピースの少女を指差したが、
こちらはフルフルと体を震わせ、怯えている。

怒鳴りつけて来られ、驚いてしまったのだろうか?

その様子を見た途端、大傘は気まずくなる。


「彼女は、まだ勝手が理解できてないだろう?
レジの仕事が出来る確率、0%である」

「あのさ、この子にも一通りやり方教えたでやんすよ。
どうせ、人間に構うなとか言って、こっちやったんでやしょ?」

「そうだ。彼女も付喪神…私の仲間だ」

「そんだけの理由でサボらさないでくれでやんす」


中々大傘の言う通りにしようとしない少女達。
だが、会計を待つ客人の少女はそのような事などどうでもよかった。
早く会計を済まして欲しいと、待っている。


「ちょっと、揉めてないで早くして下さいよ」


待ち切れず思わず口に出す少女。


「どうしたの?
あぁ、揉め事起こって中々お金払わせてくれないの?」


その時、後ろから大傘の後を着いて来たさと見がやって来る。


「あら?貴女は…」

「私は古石さと見。二十歳はたちの覚り妖怪よ」

「覚り妖怪?貴女もですか?」

「えぇ…
で、アンタは東風谷早苗って言うのね?
しかも、さとりとこいしの事知っている…」

「さすがですね。私が思い浮かべた事を見抜くなんて」

「そりゃ、心を読めますから。
それで、会計済ませて欲しいんでしょ?なら、私が代わりにしてやるわ」

「え?でも…」

「大丈夫、こう言うバイト何度かした事あるから」


そう言ってさと見は、レジカウンターに移動した。


「(へえ、店のこんなんなのに、レジは外の世界の奴使ってるんだ)
じゃ、お会計始めるから買いたいもの出して」

「はい」


さと見に言われ、早苗は買いたいものを差し出す。
差し出されたのは風とハート柄と思われる傘1つと、
緑、白、青のハート柄の缶バッヂ3つだった。


「傘1つに、缶バッジ3つ?えっと値段は…
あぁ、傘1つ1200円に、缶バッヂ1つ190円で、それが3つだから…
合計1770円ね」

「そうです。お金も…」

「丁度出すつもりだったのね。じゃ、お支払い願いまーす」


早苗の心を読み、
傘や缶バッヂの金額や丁度の金額の金を出そうと考えていた事を見抜いたさと見は、
1770円払うよう促すと、早苗は1770円を差し出す。


「はい、丁度お預かりしますねぇ」


そう言ってレジを弄って1770円収めると、レジからレシートが出て来る。


「はい、レシートお渡ししまーす。
ご利用ありがとうございました〜」

「いえいえ、どういたしまして…」

「あー!何勝手にお会計済ましてるんでやんすか!」


会計を済ませた頃、大傘が揉めていた2人組を連れて出て来る。


「ごめーん…
でも、お客さんの前でもめるのもどうかと思うけどね。
その2人のが特別問題児だからってのは分かるけど…」

「そうなんでやんすよ。
特にこっちの"ビフス・アイタスト"がねえ、
メディスン以上の大の人間嫌いで…」


疲れた様子で大傘は頭巾の少女に目を向ける。
ビフスと呼ばれた少女は、プイッとそっぽを向いていた。


「確かに曲者っぽい感じね。もっとも…」


と、急にさと見は天井に目を向ける。


「こっちにもいるようだけどね!」


ヒュンッ!

そして次の瞬間!
さと見は片手から黄色い玉を放つ。


「ギャッ!」


すると、その玉は何もないはずの場所に命中し、
その何もなかったはずの場所から、悲鳴を上げながら何かが落ちる。
それは、カール気味でボリュームのある紫色の長髪の少女であった。


「おんや?」

「あら?貴女は…泉夜子さん?」

「チィッ!」


早苗に泉夜子と呼ばれた少女は、
体を起こしながらさと見を睨む。
一方、さと見は得意げな顔で彼女を見据え、その心を読む。


「"何でわかった!?"
そりゃ、私が覚り妖怪だからよ。
いくら気配消したって、心の声までは消しきれない…
ここに入った時からアンタの心は丸見えだったわ」

「クソッ!」

「そんな事より、何で貴女がここにいるの…?」

「はっ!」


ふと、背後から聞き覚えのある舌足らずな声が聞こえ振り返ると、
そこにはさと見の後に続いて来ていた、
小花と蛇丸が立っていた。


「理由を聞かせてもらいたいなあ。また小花を狙いに来たか?」


腕を組み、半目で問い詰めてみる蛇丸。
これに泉夜子は、「ああ、そうだよチビヘビ!」とぶっきらぼうに答える。


「え?違うでしょ?」


だが、そう答えた彼女に、さと見は突っ込みを入れた。


「はあ?何言ってんだよ!」

「いや…アンタ、本当はここの商品目当てで来たんでしょ?
見た目がとっても可愛いから…」

『え?』


さと見の一言に、小花と蛇丸、そして早苗の視線が一気に泉夜子に集まる。


「え?…い、いぃ…いやいやいや、違う違う違う!
私ゃそんなの興味が…」

「嘘ぉ、あるでしょ?
でも、敵対している相手にこんな可愛い趣味があるとからかわれるから、
ずっと黙っていた…
そして、気配消してこそこそ見るだけで留めていた…
そうでしょう?」


否定しようとする泉夜子だったが、
さと見が割って入って彼女の心を読んで見付けた本音を暴露する。


「なっ!お前…!口から出まかせ言うなっつーの!!」

「あれあれぇ?出まかせじゃないわよ。
それに、そこのお三方は信じてるみたいですし〜…」

「え?!」


さと見に言われ、泉夜子は早苗達の方に目を向けると、
彼女らは面白そうな顔で泉夜子を見つめている。


「へぇ…そうだったんだ…」

「貴女っていつもやたらとみんなと距離を置いて、
近寄りがたい感じでいたけど…」

「泉夜子さんも女の子なのですね!安心しました!」

「…!きっさまぁ!!」


次々と発せられる3人の言葉に、
泉夜子は自分の本音を吐いたさと見を睨みつけた。


「なあに怒ってるの?
私はアンタが言いたくても言えなかった事を、
代わりに言ってやっただけよ。何なら、もっと言ってあげましょうか?」

「!ちくしょう!!」


また本音を言われそうになった事を恐れてか、
泉夜子は左手を振いながら軽く飛ぶと、
黒い塊に変身して猛スピードで店から飛び出して行った。


「あ!…逃げ足速っ!」

「しかし、あんなのまで店にいたなんて…
ぜーんぜん気付かなかったでやんす」

「まあ、心の声から察するに物盗りに来た訳じゃなかったようだけどね。
つっても、隠れてコソコソ見に来てる以上、
変な気を起こさないとも限らないしね」

「うわぁ…ちょっと怖いでやんす」

「あら?大傘さんも怖がるんですか?」

「まあね。君は全然怖くないけど」


早苗の一言にさらっと返す大傘。
これに早苗は面白くないと感じる。


「ホント、そこが面白くないですよね、貴女は」

「別に、これが普通でやんす」

「…まあ、良いですわ。
とりあえず買いたいものは買えましたし、これで失礼させて頂きます」

「さよなら。また欲しいものあったら来てくれでやんす」


大傘とそのようなやり取りを交わし、早苗は店から立ち去った。


「うわぁ…あの子、妖怪相手にはSっぽくなるタイプね」


立ち去ったのを見計らい、そんな風に早苗をあらわすさと見。
どうやら、彼女の心もしっかり読んでいたようだ。


「そうなんでやんすよ。
あの早苗って子は、いつもいつも妖怪相手に物騒な発言しては、
ワチキの友達脅かしたりするんでやんすよ」

「"友達も肝が小さいけど、あっちも止めて欲しいでやんす"」

「そうそう!
いやあ、便利でやんすねぇ〜、その力…
ますます憧れるでやんす」

「え?そう?ハハハハ、それほどでもないわよ!」


大傘に褒められて上機嫌になるさと見。
そんな彼女の姿を見ながら、蛇丸は小花にこう言った。


「な?アレが僕と何か関係持っている奴に見えるか?」

「見えない…」

「やっと信じてくれたか?」

「えぇ…ごめんなさい、疑って…」

「なあに、分かってくれたらそれで良いよ」


そう言いながらまたさと見に目を向ける蛇丸。

そんな事知ってか知らずか、大傘はさと見にある話しを持ち込む。


「あ、そう言えば君さっきレジの会計やってくれたよね?」

「ええ。それで、私に会計役手伝って欲しいと」

「そうそう。
いやあ、さすがは覚り妖怪、話しが速くて助かるでやんす。
もうこの2人は人間相手じゃ役に立たないでやすから、
君みたいなのがいてくれたら心強いでやんす!」

「OK!じゃあやってやるわよ。
蛇丸、小花、アンタ達も手伝って頂戴!!」

「え?」


唐突に自分に振られ、唖然とする蛇丸。
しかし小花はそうでもない。


「そうね…
さっきこのお店の傘投げちゃったし、
弁償しなくちゃ…
呪之助君、行きましょう」

「え?あ、あ…ああ」


と、小花にそう言われいささか腑に落ちないまま蛇丸も店を手伝う事になった。


「よぉし!1人より2人!2人より3人!
手伝ってくれる人がこんなに増えて嬉しいでやんす!
と言う訳でビフスとコピックは裏方に回れでやす!」

「良いだろう。人間が来るかもしれない仕事は、まっぴらだ。行くぞ、コピック」


少女らしからぬ振舞いでビフスは答えると、
コピックと呼ばれた少女と共に奥へと消える。


「えらい人間嫌ってるわね、アイツ…」

「そうなんでやんすよ…
彼女、昔身勝手な人間に捨てられた人形だったんでやんすよ」

「ああ、それで…
でも、あのアルコールマーカーみたいな名前の小さい子は違うみたいね。
自分では何も考えてないみたい」

「コピックでやんすよ。
彼女も付喪神なんでやすけどね、
君の言う通り何も考えて無くて、コミュニケーション能力が乏しいんでやんす」

「だから他の人の言う事をホイホイ聞いちゃうと…」

「全く、なんであんなのを従業員にしたのか、
自分でも訳が分からないでやんす。
コピックはチラシの複製役で役に立ってるんでやんすけどねえ…」

「まあ、良いじゃないそんな事は。とりあえず、そろそろやらせてもらっても良い?」

「良いでやすよ」

「よーし!じゃあ、行くわよ、蛇丸、小花!!」

「えぇ…」

「(何か周りに流されてる様な気がするが、まあ良いか…)」


こうして、さと見、蛇丸、小花は大傘の店を手伝う事となった。

まず、レジ担当のさと見は、嫌われ者の覚り妖怪であった為、
客人を驚かせないよう第三の目が隠れるようにケープで身をくるみ、
念の為第三の目も閉じて接客する事にした。
そして小花は表で呼びこみ役、
蛇丸は商品のチェックと売り切れた時の為の補充役を任され、
ビフスとコピックは裏でチラシの製作及び複製を任された。

それでも、客の入りは並み程度ではあったが―――


「はぁ…なんで俺が商品のチェックと補充役なんだ…」

「そりゃ、こう言う仕事は力ある男の子がする事だからじゃないの?」


そんな中、蛇丸は売り切れていた缶バッヂや傘を置きならべながら、
蛇丸は愚痴り、レジで聞いていたさと見は当たり前のように答える。
しかし、蛇丸は気が気じゃない。


「いやいや、こう言うのは俺よりも小花の方が適任なんだよ」

「どう言う事?」

「アイツはな、物を浮かばせられるんだ、どんなものでもな。
だから、こう言うのは俺よりもアイツにやらせた方が速くて効率的なんだよ」

「でも、こんな女の子じみたグッズが並ぶお店の呼び込み役が、
アンタみたいな男の子じゃ、
何だか不釣り合いだと思うわよ」


そう、この店に並ぶ商品は全て、
ハート柄だったりピンクだったりと女の子受けしそうなものばかりがズラリと揃っている。
確かに男の蛇丸が呼び込み役をやると、
違和感がありそうな雰囲気なのは確かであった。


「…そうかもしれないな。
でも大傘は、特に客の性別は絞っていない」

「そうなの?じゃあ、これはいったい何なの?」

「アイツは、客より自分の心理に合わせて商品を作ってるからだ。
それが、この結果だ」

「へえ…バカみたい。何で自分基準なの?」

「いや、それがな…」


と、急に蛇丸は辺りを見回し、誰もいない事を確認すると、
さと見に歩み寄って小声でこう言った。


「実はここだけの話し、
商品のデザインの数々は、ウチの主人に感化されてのものなんだ」

「主人って…さとり?」

「ああ…
アイツ、さとりに異様な憧れをもっていてな…
地霊殿を見れば分かるが、
さとりはピンク色でハート柄のものを結構好んでいる。
その影響だ」

「なるほど、それであんなに覚り妖怪を絶賛したのね」

「そう言う事。しかも、これだけじゃないんだ」

「と言うと?」

「アイツは…大傘はな、覚り妖怪になろうと考えているんだ」

「え?嘘ぉん…」


さと見にはにわかに信じがたい事だ。
何故なら覚り妖怪は嫌われの対象、
大傘はそんな種族になりたがっている妖怪だと言うのだ。
本来、妖怪は一度その種族として生まれてしまえば、
そう簡単に他の種族へ変わる事など不可能に等しい。
であるにもかかわらず、
彼女は付喪神と言う種族を捨て覚り妖怪になろうと考えているのだ。

どの種族レベルで考えてもおかしい。


「残念だが本当だ。
わざわざここに居を構えているのも、覚りと言う種族に近付く為だそうだ。
だから、いつも売上金の一部をウチに寄付してるんだよ。
多分、今日も渡すよう頼まれるぞ…」

「なるほど…覚り妖怪になりたがってる付喪神ねえ…」


蛇丸の話しを聞き、
さと見はしばし大傘について考える。
そして考えた末、ある事を決めた―――


「(コイツは面白そうなのに出会ったわ。フフフ…)」




それから彼女らは店が閉まる時間まで働き続けた。
だが、それに見合わず客行きは並み程度。
来ても商品のデザインが祟って女性ばかり。
旧都の広場から姿を消したシキも来店したが、
古釜の為に買い物に来ただけであった。

そして、そのような事が続いた末、夕方の閉店時間がやって来た。


「やれやれ、結局夕方になってしまったな…」


地霊殿に帰る為、店の前まで出て来た蛇丸はそう呟く。
帰る家がある小花やビフス、コピックも一緒だ。


「そうね。別に私は悪くなかったわ…」

「私は、やっとに人間の姿を見ない裏方に回れてよかった」

「小花はともかく、お前は論外だな…」


ビフスに突っ込みを入れる蛇丸だが、ビフスは特に意を示さない。


「まあまあ、そう言わないで…はい、コレ」


そんな中、彼らを見送る為、
さと見と一緒に外にいた大傘は、蛇丸に小袋を手渡す。

それは小銭が入った袋であった。


「今日の分の売り上げの一部。絶対さとり様に渡すでやすよ」

「(やっぱり来たか…)ああ、言われなくとも渡しておく」

「頼みやすよ。じゃ、みんなもしよかったら次もよろしくね」

「えぇ、まだ弁償しきれてないから、またくるわ…」

「暇があったらコピックと一緒にまた来よう」

「俺は…当分は来ないかもな」


と、一同はそう言いながら、帰る為にその場から立ち去っていく―――
のだが、ここから立ち去らねばらならいのに、
去ろうとしない者が約一名―――


「あれ?」

「さと見?」


コピックとビフスが既に歩き去った中、
その事に気付いた蛇丸と小花は振り返る。
振り向いた先には店の前で今も立つ大傘と、さと見がいたのだが、
さと見は大傘の横に立ったまま歩こうとしなかった。


「あれ?君は帰らないんでやすか?」

「ええ」


大傘も予想外だったのか、さと見に問うと、
さと見はきっぱりと答えた。


「どう言う事だ?お前まだ住む場所が…」

「ごめーん、今日このお店の手伝いしてたらね、
私、この子のお店気に入っちゃってね…
だから、この子ン家に住む事にしたわ」

「なんだって!?」


さと見の一言に驚きを隠せない蛇丸。
しかし、そんなに簡単に決めていいのだろうか?
とりあえず、家主と話しを―――


「え?嘘!?それホント!?」

「ええ、本当よ。良いでしょ?」

「うんうん!あのさとり様の同族なら大歓迎でやんす!
あぁ…これでワチキは、あの人にまた一歩近付けるんでやすね〜!」


付ける必要は無さそうだ。
大傘は、憧れのさとりと同じ種族の妖怪が家に住むと聞き、
これまでにないほどうっとりした顔をしている。


「(相変わらず重症だなコイツ…)」


蛇丸は呆れた。
同時に、大傘があの様子ならヘタに引き離すのは無理だと判断する。


「そうか…なら、そうしなよ」

「ありがと。じゃ、さとり達にもそう伝えといてね」

「もちろんだ」

「よおし、それじゃあ私腹減ったわ。夕飯作ってくれない?」

「うん!作ってあげる!腕によりを掛けて作ってあげるでやんす!!」


自信満々に、それでいて物凄く楽しそうに大傘はさと見にそう言うと、
彼女はさと見と共に店の中へと消えて行った。


「……………」

「じゅ、呪之助君…?」

「はあ、何考えてるんだアイツ?まあ良い、行こう」

「そうね…あ、ねえ今日はもう遅いし、呪之助君の所泊って良いかしら…?」

「お?良いぜ。最近さとりとも会ってないだろ、来いよ」

「やった…」


そして、蛇丸も小花を連れて地霊殿へと帰っていった。

突然、大傘の店を住む場所に決めたさと見。
無論、これには理由があった。

それは―――




「(フフ、あっさりと上手く行った…
さあて、コイツが覚り妖怪になれると思い込んで何処まで生きて行くのか、
見物だわ)」


との事らしい。
どうやら、蛇丸の話しを聞いて彼女に妙な興味を持ったようである。

こうして、意外な形でさと見が暮らす場所が決まったのであった―――



戻る






 

inserted by FC2 system